COP28閉幕「化石燃料からの『脱却』」で決着/インタビュー日本気候リーダーズ・パートナーシップ共同代表・山下氏
アラブ首長国連邦(UAE)で開かれていた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は、「化石燃料からの脱却(transition away、「移行」との訳も)」を盛り込んだ合意文書を採択し閉幕した。2035年までに世界全体の温室効果ガス排出量を19年比60%削減することも確認した。国際社会は具体策や高い目標を要請しており、企業は脱炭素への圧力が強まることを前提に成長戦略を描く必要がある。(編集委員・松木喬)
対策発信、企業が存在感 適応策投資も訴え
11月30日に開幕したCOP28は、順調な滑り出しだった。気候災害から被害を受けた国を救済する基金の運用が合意され、30年までに世界全体の再生可能エネルギーを3倍にする誓約にも118カ国が賛同した。
しかし、12月8日から閣僚級会合に入ると暗転。合意文書をめぐって行き詰まった。欧州や島国が「化石燃料の段階的廃止」を提案すると、中東の産油国が拒絶。「削減」と弱められたが、欧州などが押し返して「脱却(移行)」で決着した。各国は25年、自国の目標を再提出する。日本は30年度46%減(13年度比)を修正するかどうかの判断を迫られる。
各国の企業関係者もCOP28の会場に駆けつけた。交渉は政府代表団が担うが、企業関係者はイベントに参加して対策を呼びかけ、合意への機運を盛り上げた。企業などはノンステートアクター(非国家主体)と呼ばれ、存在感を高めている。
NECの森田隆之社長は同社トップとしてCOPに初参加し、国連機関の会合で講演した。気象災害からの被害を軽減する「適応策」への投資も重要とし、「企業や金融機関、政府、国際機関、科学者が協力して積極的に行動を起こす必要がある」と訴えた。
経団連はグリーン・トランスフォーメーション(GX)を主題としたセミナーを開き、カーボンニュートラル(CN)に向けた日本の実績を世界に発信した。
企業グループの日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)からは山下良則共同代表(リコー会長)らが訪問した。米国の前気候担当大統領補佐官のジーナ・マッカーシー氏、財務長官気候変動担当補佐官のイーサン・ジンドラー氏などと面談した。また、シンクタンクの地球環境戦略研究機関(IGES)が提唱した日本の脱炭素工程表「1・5℃ロードマップ」の発表会に参加した。
ほかにパナソニックホールディングスの楠見雄規社長、住友林業の市川晃会長が経済産業省主催のイベントに登壇した。
インタビュー: 日本気候リーダーズ・パートナーシップ共同代表(リコー会長)・山下良則氏
―COP28の印象はいかがでしたか。
「COPに初めて参加した。会場は気温上昇1・5度C以内達成への機運で満ち、対策の“実行”に関心が向いていると感じた。一緒に訪問したJCLP会員21社も世界情勢を肌で感じ、経営戦略に反映させようと感じたのではないか」
―マッカーシー氏など海外要人と会談した感想は。
「マッカーシー氏は、気候変動対策に大型投資をするインフレ抑制法を主導した人物だ。米国経済は脱炭素に動いており、実践している印象を受けた。日本の経営者が、世界の政策をリードする人たちとコミュニケーションをとることも有益だと感じた」
―IGESの「1・5℃ロードマップ」の発表にも参加しました。
「公表に終わらず、日本の次期エネルギー基本計画に反映できるように議論したい。いつまでに何をするのか分かると、企業も長期視点で投資を検討し、自信を持って脱炭素を推進できる」
―JCLPに「経営者の会」を創設すると表明しました。
「経営者のコミットメントは影響力が大きい。また、トップの理解があると気候変動対策への投資が進むと思い、経営者が気候変動をはじめとする環境問題を議論する会を提案した」
―COP28では化石燃料が焦点でした。
「今回、世界の潮流を目の当たりにした立場から言えば、自社の中期経営計画に化石燃料を減らす方向を織り込む必要があると感じた。我々ももう一段、スピードを上げる。日本らしい方法で良いと思うが、コミットして実行するサイクルを回さないといけない」