日本の「耐火」木造ビル、欧州で新たな選択肢になるか
日本の耐火思想 “浸透” 図る
シェルター(山形市、木村仁大社長)は、木造建築の耐火技術など都市部での木造ビル建築に向けた構築技術をスイスのエンジニアリング企業・ウォルトガルマリーニ(WG、チューリヒ)に供与した。建築先進地でもある欧州の企業が日本発の建築技術を採用する事例となった。WGは欧州における木構造技術のリーディング企業。今後は欧州でも日本の耐火基準を踏まえた木造ビルの建築が新たな選択肢に加わろうとしている。
今月5日、シェルターはチューリヒのWG本社でシェルターが持つ木造構築・耐火技術を供与する契約を結んだ。シェルターが開発した接合金物工法「KES構法」と木質耐火部材「COOL WOOD(クールウッド)」を用いた木造構築技術を使い、スイスなど欧州各国での木造ビル普及につなげる狙い。
現地で契約を結んだシェルターの木村一義会長は「日本の耐火技術は世界でもトップクラスにあることが認められた」と今後のデファクトスタンダード化を期待する。
今回の技術供与の前段として、両社は2023年9月に、木造建築の技術革新に向けてパートナーシップ協定をシェルターの東京支社(東京都港区)で調印した。同協定締結時の会見でWG側は、シェルターの技術を「大変良い」と評価した。この来日時にWG側は、クールウッドを使った木造ビルなどを実際に視察し、日本での「木造都市」推進をけん引しているシェルターの技術力を間近に確認した。
両社がタッグを組むきっかけは、木村会長が22年にスイスやオーストリアなど欧州の中高層建築物の視察をした際に、シェルターと旧知であるスイスの建築会社を通じて両社が意見交換をする「場」を設けたのがスタート。木村会長は「欧州と日本では木造耐火構造の考え方に違いがある」と説明する。この考えの違いを受け入れることになったのが、今回の技術供与のポイントにもなる。
欧州を中心とした海外での木造ビル建築における耐火の考え方は、日本の建築基準法上での準耐火構造にあたる「燃え代設計」と同様の考え方が主流という。これは火災によって焼失することが想定される部分(燃え代)を構造上必要な寸法にあらかじめ付加する設計法になる。木は燃えて、消失してしまうことが前提で、建築物が倒壊する危険性を持つ。一方で、日本の耐火構造の考え方は、「燃え止まり、自己消火し、倒壊しない」構造法になる。木村会長は「日本の木造耐火の考え方を浸透させていきたい」と意気込む。
シェルターのクールウッドは燃え止まり層に石こうボードを用いた耐火部材。13年には1時間耐火仕様で国土交通大臣認定を取得。14年には2時間耐火、17年には3時間耐火の認定を国内で初めて取得し、建築基準法上の防火地域内で15階建て以上の高層ビル建築に先鞭(せんべん)をつけた。
今回のWGとの契約締結は「あくまでも技術供与にとどまる」(木村会長)。クールウッドの供給などは、技術供与先のWGを通じて現地での供給体制構築などが想定されるという。