知財も一部公開…村田製作所が“共創”加速で電子部品の新用途開拓
村田製作所がスタートアップや大学との“共創”に力を入れている。2022年度に開始した共創プロジェクトでは、具体的な製品開発につながる事例も出始めた。電子部品で世界大手の同社が異分野との協業を進める背景には、新たな市場や用途を求めて「新しい発想」(岩坪浩取締役専務執行役員)を獲得する狙いがある。今後は同プロジェクトの海外開催も視野に入れるなど、取り組みを加速させていく考えだ。(京都・小野太雅)
「今回は開発品を提供するほか、知的財産も一部公開する」。共創プロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata」の仕掛け人でもある岩坪取締役専務執行役員は、こう意気込む。22年度の初開催に続き、現在は2回目のプロジェクトが進んでいる。村田製作所のハードウエアを活用した新事業の案をスタートアップや大学などから募り、選考を突破した組織には、同社が事業化に向けて技術確立や試作、量産準備を支援する。
2回目となる今回は提供製品の種類を拡充している。前回は標準的な部品が中心だったが、新たに無線識別(RFID)製品や、現場の見える化・業務改善支援ツール「JIGlet」などラインアップを広げた。開発品の音響センサーや、圧電フィルムなどに関する知的財産の公開にも踏み切った。
村田製にとって同プロジェクトはハードウエアの新用途開拓につながる。世界シェア首位の積層セラミックコンデンサー(MLCC)や表面波フィルターについてはノウハウも蓄積し、将来の技術的方向性やニーズを「ある程度読める」(岩坪取締役専務執行役員)。しかしエレクトロニクス以外の知見が関わる新事業や新用途開発は、主力事業と比べて「新しい発想が出にくい」(同)のが実情だ。同プロジェクトで「当社だけでは思いつかなかった面白いアイデアが出れば」と岩坪取締役専務執行役員は期待する。
一方、プロジェクトに参加する大学や企業側にも利点はある。村田製の製品や技術力などを活用すれば事業化につながる可能性が高まるからだ。初回のプロジェクトで最優秀賞を受賞したソラテクノロジー(名古屋市西区)は、長時間運用に適した太陽電池を電源に飛行する飛行ロボット(ドローン)の開発に村田製と連携して取り組んでいる。試作では村田製の微小電気機械システム(MEMS)慣性センサーを搭載した、ドローンの機体制御に使うコントローラーを活用。実機への採用も視野に入れる。
ソラテクノロジーの加藤宏基技術リーダーは「専門領域の異なる両社が意見を出し合うことで、ドローン性能が向上している。お互いの事業にとって有益な情報交換もできている」と参加の利点に言及。村田製の岩坪取締役専務執行役員は「プロジェクトで共創した組織が大企業へ成長した時、『KUMIHIMOがきっかけ』と言ってくれたらうれしい」と話す。今後は東欧など海外での開催も検討する。