村田製作所やオムロン…“社会課題解決企業”への移行は稼ぐ力につながるか
電子部品メーカーの間で、部品の単品売りに終始してきた従来のビジネスモデルを見直そうとする動きが広がっている。部品を組み合わせたモジュールの販売を増やしたり、モジュールとソフトウエアを活用した「顧客目線での課題解決(ソリューション)」に事業領域を広げたりする取り組みが始まった。こうした“社会的課題解決企業”への移行の試みを、中長期的な稼ぐ力の向上にもつなげられるかが問われる。(山田邦和)
スマホ鈍化・海外競争に対応/顧客ニーズ捉え直し
「『モノ』から『コト』へのビジネスなど、ソリューションを提供する能力を最大限に上げていく」―。村田製作所の中島規巨社長は2021年11月、30年までの長期ビジョンを発表した場でこう強調した。
実現のために掲げたのが3層経営。1層目が積層セラミックコンデンサー(MLCC)などの電子部品を単品で売る従来のビジネスであるのに対し、2層目は自社の部品や半導体などを組み合わせ、顧客が求める機能を持つモジュールにして販売。3層目がモジュールとソフトウエアを組み合わせ、顧客や社会の課題を解決するソリューション事業と定義する。
「3層目は当社がこれまで経験したことのない領域。22年からの3年でビジネスモデルをクリアにしたい。30年に1000億円程度の事業規模を目指す」(中島社長)。
同様の動きは他の電子部品メーカーにも広がっている。ミネベアミツミは21年、社会的課題の解決に役立つ製品を強化する方針を発表。オムロンも山田義仁社長が22年3月に30年までの長期ビジョンを公表した際、「コト視点で社会変化や顧客課題を捉え直し、ソリューション型の企業に変わっていきたい」との目標を打ち出した。
具体的な製品の開発や販売も始まった。ミネベアミツミのスマート街路灯は、発光ダイオード(LED)道路灯を無線でネットワーク化。点灯・消灯や照度を無線通信で遠隔管理し、一般的な水銀灯に比べ消費電力を最大約90%削減できるようにした。センサーと組み合わせて温湿度や気圧などの情報をリアルタイムで分析し、気象予測の精度向上などへの活用も想定する。
オムロンのIoT(モノのインターネット)ゲートウエーは、デバイスやセンサーとクラウドをつなげる通信機能を自由に選べるのが特徴だ。工場設備の異常検知や、天候状況の検知を通じた太陽光発電の予測などでの使用を見込み、客先での評価や実証実験を進めている。23年度の製品化を目指す。
アルプスアルパインは物流資材を遠隔管理できる「物流トラッカー」を活用し、トラックなどの輸送時に荷物を載せる荷役台(パレット)に装着して、位置情報や移動履歴などのデータを収集する実証実験をキユーソー流通システムや損保ジャパンと行っている。
パレットはフォークリフトによる積み下ろしが可能で、荷役作業も担うドライバーの負担軽減につながる。一方、予定とは異なるルートや保管場所に移動(流出)し、利用会社の管理から外れてしまうパレットも多く、業界の課題となっている。実験で得られたデータをもとに流出原因の分析を行い、課題解決につなげる。
「垂直統合」の強み生かせるか/マーケティング力必須
村田製作所やオムロン、ミネベアミツミは22年3月期に過去最高の連結営業利益を達成または見込んでいる。業績が好調な中でビジネスモデルを見直すのは、電子部品メーカーを取り巻く環境の変化が背景にある。
一つは電子部品にとって主戦場だったスマートフォン(スマホ)市場の成長鈍化だ。新機種の発売効果などで21年の世界販売台数は前年比プラスを記録したものの、かつての勢いはなく、需要のけん引役を今後も期待できるかは不透明だ。
一方、第5世代通信(5G)の普及などを背景に、在宅医療や産業機器の遠隔監視といった新市場が生まれており、スマホ以上の規模になる可能性も出て来た。ミネベアミツミの貝沼由久会長兼社長は「『世界の国内総生産(GDP)成長とともに高付加価値の部品が売れる』従来のトレンドに、『(高齢化や人手不足など)さまざまな社会的課題を解決するデバイスが売れる』新トレンドが加わった」と指摘する。
ただこうした新規顧客はモノづくりのノウハウを持たない場合もあり、「部品(ハードウエア)だけ納めても困ると言われる。ハードとソフトを合わせた部分まで電子部品メーカーが対応する必要性が高まっている」(電子部品メーカー役員)。
もう一つの変化が、海外同業との競争激化だ。スマホや自動車に欠かせないMLCCをはじめ、多くの電子部品で日本メーカーが高い世界シェアを占めるものの、「韓国や台湾勢の存在感が高まっており、米中貿易摩擦などを背景に中国勢の追い上げも激しい」(同)。
MLCCの場合、原材料や生産設備を内製化する「垂直統合」方式を採用している上、原材料の生成技術や小型化の手法は簡単にまねできない“ブラックボックス”だ。すぐに攻守が逆転する事態は考えにくい。それでも人やモノが自由に行き来するグローバル時代の中、「部品単体ではコモディティー(汎用品)化するのではないかという危機感は常にある」(同)。部品で利益を生んでいる今のうちに次のビジネスモデルを模索する必要があるとの認識だ。
とはいえ、日本の電子部品メーカーがソリューション分野でも存在感を示せるかは未知数だ。これまで日本の電子部品が世界の中で競争力を維持できてきたのは、高い世界シェアを背景に顧客ニーズを見極め、いち早く開発を進められたことが大きい。米アップルがスマホで展開してきた水平分業の事業モデルの中で、得意な製品や技術に特化し、世界シェア首位級になれば、例えそれがニッチな領域であっても業績を拡大できた。
一方、ソリューションビジネスでは高シェアの前提がなく、課題のどの部分にアプローチするかがビジネスの浮沈を左右する。従来の「売り切り型」と異なり、販売後もソフトの不具合対応などアフターケアで継続的な付き合いが必要になるため安定的な収益が期待できるとの見方もあるが、自社で手がけていない部品やサービスを外部から調達する必要も増えるとみられる。
電子部品と同等の稼ぐ力を維持し高めるためには、完成品の最新の動きや世の中の潮流をつかむ高度なマーケティング力が必要になるだろう。