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触媒技術で水素サプライチェーン、千代田化工が商用化へ

触媒技術で水素サプライチェーン、千代田化工が商用化へ

東亜石油の京浜製油所に設置したデモプラント

商用化へ国内外で商談

千代田化工建設が脱炭素戦略の中核に位置付ける水素サプライチェーン(供給網)の事業化へ前進している。水素の国際的な貯蔵・輸送手段として、専用設備が不要なメチルシクロヘキサン(MCH)を採用し、約20年間研究した触媒技術を活用した実証で、日本への輸送と供給という成果を挙げた。国内外で顧客との商談を深め、商用化を目指す。(戸村智幸)

「いますぐではないが、着々と布石を打っている」―。榊田雅和会長兼社長は水素サプライチェーン構築など脱炭素技術の事業化への道筋に自信を見せる。 水素は燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出せず、脱炭素エネルギーとして期待される。ただ事業化には海外で製造し、日本に輸送する一連の手法を確立する必要がある。千代田化工は水素とトルエンでMCHを合成し、MCHが常温・常圧の液体のため通常のコンテナ船などで輸送できる点を訴求する。

これまで、三菱商事などと4社共同で、ブルネイでMCHを合成して日本に輸送し、川崎市川崎区のデモプラントで水素を取り出す実証を実施。ENEOSに水素を供給した。デモプラントは東亜石油の京浜製油所内に設置しており、同社が併設する自前のガス火力発電所にも水素を供給し、混焼する発電を実証した。

他社は別の輸送方式に取り組む。川崎重工業は液化水素を採用。2030年ごろの商用化を目指しているが、大型運搬船の開発・製造など関連機器を整える必要がある。それに対し、MCHは船舶や輸出入に既存設備を利用できる利点がある。

ただ、MCHでも水素の価格を下げるためのコスト削減が必要になる。千代田化工の松岡憲正常務執行役員フロンティアビジネス本部長は「触媒の性能向上や材料削減が重要だ」とコスト削減方法を挙げる。実際に、性能を高めた改良版触媒を開発している。

一方で商用化に向けた段階に移り、年数千―10万トン規模の水素を取り扱う商談を進めている。実証のノウハウを生かして大型化できるとみる。井上泰宏フロンティアビジネス本部水素事業部長は「20年代後半に最初の顧客を実現できれば」と見通す。

シンガポールで三菱商事、現地のエネルギー大手セムコープ・インダストリーズと組み、千代田化工の触媒技術による水素サプライチェーン事業開発を目指すなど具体的な動きも出ている。

千代田化工の強みは石油・ガスなどプラント建設で培ったプロジェクト管理能力だ。水素に応用できるかが事業化のカギとなる。

日刊工業新聞 2023年11月01日

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