最高益更新…モビリティーカンパニーへ変革する“盤石”トヨタの懸念事項
トヨタ自動車が盤石な事業基盤を見せつけた。2022年度に続き、23年度上期(4―9月)でも世界生産と世界販売台数で過去最高を達成し、営業利益は2兆5592億円となった。原価低減活動や損益分岐台数の引き下げといった長年の取り組みが奏功した。ただ、モビリティーカンパニーへの変革を進める上でも、電池や水素、ソフトウエアなどへの巨額の投資が欠かせない。強固な財務基盤を安定して持続できるかが次なるテーマだ。(名古屋・川口拓洋)
最高益更新、設備投資も最高へ HV、利益の源泉に
「世界中のお客さまに感謝しなければならない数字」。1日に会見した宮崎洋一副社長は2023年4―9月期連結決算(国際会計基準)についてこう表現した。売上高と全利益段階で上期として過去最高を更新した。ダイハツ工業や日野自動車を含めたグループ連結販売台数が全地域で増加した。急速な電気自動車(EV)シフトや景気の鈍化が進む中国でも前年同期と同水準を達成し、経営基盤の底堅さを示した。
トヨタでは豊田章男会長が社長に就任した09年以降、収益体質の強化を進めてきた。商品の競争力を高める「もっといいクルマづくり」と地域のニーズに適した商品を展開する「町いちばん」の活動が主軸だ。今回の決算はこの取り組みが如実に現れており、宮崎副社長は「一朝一夕でできるものではなく日々改善し心を一つにした成果だ」と語る。
23年4―9月期の営業利益では販売価格の改定を含んだ営業面の努力で1兆2900億円を積み上げた。商品力強化と地域に最適な車種、新機能による付加価値向上により、車両価格の引き上げにも顧客が追従し、販売や収益が伸びている。
トヨタでは24年3月期に設備投資額として過去最高となる1兆9700億円を計画する。確固たる経営基盤を基にモビリティーカンパニーへの変革に向けリソースを移す。競争力のあるEVや水素、ソフトウエア、エネルギーなどがその軸だ。原資となるのが、ハイブリッド車(HV)。24年3月期にはトヨタおよびレクサスで1040万台を計画するが、このうち3割を超える約359万台をHVが占める。
特にトヨタのHVはエンジンとモーターのスムーズな移行が魅力。走行性も相まって国内外で需要が高い。「ガソリンを使ったコンベンショナルな内燃機関車から変更する際にも、経済性や利便性が評価され需要につながっている」(トヨタ幹部)という。このHVの需要はEVシフトが急速に進む中国でも同様。3割といわれるEV普及率だが、残り7割は内燃機関車。「(中国でも)HVで台数を伸ばせている」と話す。プラグインハイブリッド車(PHV)でもHV車と変わらない収益性を確保しており、先行投資が重く収益化に時間がかかるEVに対しHVやPHVを利益の源泉と位置付ける。
懸念は中国動向、電動車の総数確保
トヨタの事業基盤の特徴の一つにグローバル・フルラインアップがある。日本、北米、欧州、中国など販売する地域に偏りがなく安定した売上高と利益を稼げる。世界販売は堅調に推移しているが、懸念事項はなんといっても中国だ。景気の後退感に加え、急速なEVシフトが、トヨタをはじめとした日系メーカーを苦しめている。
「中国ではEVを中心とした電動車で値引き競争が起きている」と現状を解説するのは宮崎副社長だ。トヨタはシェアを維持する方針で、EVだけでなくHVでの台数にも力を入れる。「(電動車の)総数をまず確保したい。価格競争に巻き込まれない一つの方策でもある」と話す。
ただ、中国向けが大半を占めるEVでは、24年3月期の販売台数見通しで、これまで公表していた20万2000台を下方修正し、12万3000台とした。宮崎副社長は「顧客には多くの選択肢がある。(EV専用車の)『bZ4X』を中心に改良の余地がある。顧客の声を反映して、適宜モデル改良を加える」と表明する。
中国には特殊事情もある。「中国において電動化はそれほど重要ではない」と語るのはある業界関係者だ。「車内の大型モニターを使いゲームや動画が楽しめる空間を売っている。パワートレーン(駆動装置)ではない」と語る。知能化やAI化が魅力の「ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV、ソフトウエア定義車両)」が進展しており、燃費や走行性など日系メーカーの強みが、少なくとも中国では購入者に届きにくくなっているようだ。
また、中国メーカーによるEVの輸出が加速している。特にタイなど東南アジアに増えており、日本メーカーの牙城が崩される懸念がある。宮崎副社長は「タイでもEVが一つのセグメントとして存在していることを認識している」と話す。今後もEVを中心に中国車の進出は進むと警戒しており、トヨタとしても「EVのラインアップはある。どのタイミングで投入するか。市場(動向)をみながら判断する」とした。
EV・ソフト更新技術に重点 日中で開発体制整備
トヨタは自動車メーカーの枠を超え、社会とつながる「モビリティカンパニー」に向け事業領域を拡大している。「もっといいクルマづくり」や原価低減による体質改善、HVなどの拡販で経営基盤を強化しながらEVや水素、ソフトウエアなど新事業へ裾野を広げる。
その中でも重要テーマがネットワーク経由でソフトを更新する技術「OTA」などで車の機能を増やし、購入時よりも価値を高めるSDVだ。
ソフトの強化に向け、トヨタでは体制整備を本格化している。8月1日には中国常熟市の研究開発子会社「トヨタ自動車研究開発センター(中国)」を「トヨタ知能電動車研究開発センター(中国)」(IEMバイ・トヨタ)に改称。同社の開発には広州汽車集団、第一汽車集団、比亜迪(BYD)など各合弁会社の開発人材が加わる。
国内ではソフト開発を手がける部署や人材を集約した組織「デジタルソフト開発センター」を10月1日に新設。デンソーやソフト子会社のウーブン・バイ・トヨタ(東京都中央区)と連携し、車載ソフトの開発や実装を加速させる。
リソースを次世代領域に振り向ける姿勢は鮮明で、東京・有明の東京ビッグサイトで開催中の「ジャパンモビリティショー(JMS)2023」でもその一端が垣間見える。26年に投入予定の次世代EV「LF―ZC」など複数のEVを発表。これら最新のハードには、新たな体験価値を実現するソフトウエアプラットフォーム「アリーン」を付与する。トヨタの佐藤恒治社長も「アプリでクルマの中から買い物ができたり、マニュアルモードで走りの味を楽しんだり」と、さまざまなアプリケーションが載ることで、多様なエンターテインメントやサービスやコンテンツが利用でき、移動中の価値観が変わることを強調する。
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