中国が黒鉛輸出規制…産業界の反応・政府の対策は?
中国政府がリチウムイオン電池(LiB)の電極に使われる黒鉛(グラファイト)の輸出を、12月から規制すると決めた。調達が滞れば、日本が重点分野に据える電気自動車(EV)用電池の生産に支障が出かねない。政府は電池などに使う重要鉱物の安定供給確保を急ぐ。同時に、経済的な脆弱性や相互依存関係を利用して他国に圧力をかける「経済的威圧」への警戒感を強めており、対応を強化する方針だ。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、中国は天然黒鉛の世界生産で65%を占め、日本は天然黒鉛、人工黒鉛ともに調達分の約9割を中国からの輸入に頼っている。ある経済産業省幹部は「まずは(日本企業にどのような影響があるかなど)状況を把握し、必要な対策を考えていかなければならない」と話す。
産業界は動向を注視している。電池の負極材を日本で生産するレゾナックは、黒鉛は中国だけではなく「さまざまなルートから調達している」とし、現状では影響は少ないと見る。電池メーカーのAESCグループは「まだどのように輸出が規制されるかはっきりしておらず、情報を精査中だ」と説明し、三菱ケミカルグループも影響は調査中だが中国に依存しない体制構築を目指す。
今回の決定は、半導体やEVなどで中国への輸出入規制を強める欧米への対抗措置と見られている。中国は近年、豊富な資源や経済力を盾にした外交圧力を強めている。
「検疫や治安などを口実に、国際法上あたかも正当な措置であるかのごとく偽装するなど、手口が巧妙化している」。今月、自民党が政府に示した経済安全保障に関する政策提言案には、経済的威圧に対する強い危機感が記された。提言骨子では、先進7カ国(G7)で迅速な情報共有や協調を行う枠組みの活用やG7以外を含むさらなる国際連携などを盛り込んだ。
政府は経済安全保障戦略の中でも経済的威圧への対抗策として、G7など有志国との連携強化を重点策に打ち出す。これまでに重要鉱物サプライチェーン(供給網)の協力で合意したカナダや豪州に加え、今後は資源を有する新興・途上国の「グローバルサウス」との連携強化が不可欠になる。
通商政策や国際経済法を専門とする上智大学の川瀬剛志教授は「調達や輸出をG7やその周辺国で融通できるネットワークを構築し、経済的威圧に実効性を持たせないことが有効なツールだ」と説明。「すでに不可逆的なグローバルサプライチェーン(供給網)が構築されている。自由貿易維持のためにも、資源を持たない日本が法に基づき発言していくことが重要だ」との見解を示す。
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