生成AIチャットツールの「流出」リスク、どう排除?…住友ファーマの答え
業務効率化、創造思考促す
住友ファーマは5月から生成人工知能(AI)を用いたチャットツールの全社運用を始めた。全従業員を対象に一般業務の効率化を切り口に使い慣れてもらい、その後は医薬品の研究開発や生産管理、営業など各工程で創造性を高めるヒントを得るための活用を目指す。「有能なアシスタントが全員についているような状況で運用効果は大きい」(馬場博之取締役常務執行役員)と早くも成果が出始めている。
「新技術のすごさ、スピードの体感を入り口に普段の業務での活用を考えてもらう」。土井信明IT&デジタル革新推進部長は、チャットツールをいち早く全社に導入した狙いをこう説明する。
住友ファーマは2023―27年度の5カ年中期経営計画でデジタル変革(DX)の加速を重点課題の一つに掲げており、チャットツールはデジタル基盤活用の一環。先端技術を取り入れて業務効率化を図るとともに「新しい技術に触れて新しい発想につなげたい」と、土井部長は強調する。
同社のチャットツールは、米オープンAI(カリフォルニア州)のAIエンジンを利用して開発した。ただオープンAIの「チャットGPT」と同等の機能は持つが、自社開発したことでオープンAIが二次利用できない仕様とし、社外に情報流出するリスクを排除した。
同社は自らアプリケーションを開発、運用する体制を築き、社内向けに機械翻訳ツールや情報管理システムなどを開発してきた実績を持つ。今回のチャットツール開発では、以前から大規模言語モデル(LLM)を活用してきた米国子会社のスミトバント・バイオファーマなどと連携し、チャットツールの質問テンプレートや利用ガイドラインを作成。誤った情報を生成してしまうといったLLMの課題に対応した。
同社では会議のアジェンダや資料の作成、議事録の添削、レビューの修正などに活用を始めた。表計算を自動化する「エクセルマクロ」の開発補助や英語メールの翻訳、他人に聞きにくい質問に活用する社員もおり、苦手な分野での利用で精神的負担の軽減にもつながっている。エクセルマクロでは、開発期間を2週間から2日間に大幅に短縮できた例もある。社員へのアンケートでは、一般業務で20―50%の工数削減効果を実感しているとの結果が出た。好事例は全社に広める。
同社では全社員がチャットツールを使いこなすように、ウェブ上のコミュニティーで意見交換や悩み相談の場を設けている。さらに高度な利用に向けて各部門とデータデザイン部などが連携し、各業務に特化したツールも開発していく。(大阪・市川哲寛)
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