都心 “オフィス回帰” 、注目度高まる「最先端ビル」
東京都心で大型オフィスビルが相次ぎ竣工している。いずれも交通利便性が高く、快適なオフィス環境や建物の優れた環境性能が評価される物件だ。すぐに入居を決める企業も多く、需要は底堅いと捉える向きが目立つ。一方、足元はこうした最先端ビルの大量供給によって需給が緩むとされた「2023年問題」に直面している。空室率は今後5年で上昇する公算が大きく、付加価値を訴求できないビルとの優勝劣敗が鮮明になっている。
森ビルは6日、東京・虎ノ門で「虎ノ門ヒルズステーションタワー」を開業し、段階的に進めてきた「虎ノ門ヒルズプロジェクト」を完成。11月には、約330メートルの高さを誇る「麻布台ヒルズ森JPタワー」の開業も予定する。東急不動産による「渋谷サクラステージシブヤタワー」の入居も年内に始まる見通しで、これら物件への移転が続くことで既存ビルの空室が増す傾向が強まっている。
オフィス仲介大手の三鬼商事(東京都中央区)の調べによると、都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)に建つオフィスビルの平均空室率は、8月時点で6・40%と7月より0・06ポイント低下した。既存ビルで大型の解約があった一方で、移転・拡張などによる成約が伸長。中小規模の成約も進んだことで、全体の空室面積は7月に比べ約1万4200平方メートル減少した。
足元のオフィス需要を支えているのが、大手企業で広がる“オフィス回帰”の動きだ。ただ不動産サービス大手のJLLによると、大手企業の在宅勤務普及率は8月時点で78・9%に上る。企業が求めるのは「事務作業をする単調な場所ではなく、目的を持って集まり、交流したり快適さを実感したりできる空間」(不動産大手)。その“解”の一つとして、最先端ビルへの注目度が高まっている。
実際、東京・丸の内を筆頭に最先端ビルの需要は底堅い。グローバル企業が多い赤坂・六本木やIT企業が集まる渋谷でも、コロナ禍で急増した空室が賃料調整や“オフィス不要論”の見直しを追い風に急速に消化されている。テレワークと出勤を組み合わせた「ハイブリッドワーク」を取り入れながらも、増床によって共用スペースを充実させようとする動きも目立つ。
JLLリサーチ事業部の大東雄人シニアディレクターは「欧米に比べ、オフィス回帰の動きが強い。住宅環境の違いもあるようだ」とみる。国内では、コロナ禍で縮小したオフィスへの投資も回復しているという。