今後5年で供給相次ぐ…勝ち残る「最先端オフィス」の条件
東京都心では今後5年で、不動産大手による大型オフィスビルが相次ぎ完成する。いずれも立地や共用設備、環境性能などに優れ、近年のニーズを捉えた物件だ。ただ、かねてオフィスの需給が緩むと懸念されてきた「2023年問題」に、新型コロナウイルス感染症に伴って多様化した働き方が加わったことで今後は空室率の上昇傾向が強まる。付加価値を訴求できないビルは劣勢に立たされる。(堀田創平)
三井不動産は3月、東京・八重洲に「東京ミッドタウン八重洲」を開業した。今秋には森ビルによる「虎ノ門ヒルズプロジェクト」と「麻布台ヒルズ」、東急不動産の「渋谷サクラステージ」、25年にはJR東日本による「高輪ゲートウェイシティ」、27年度には三菱地所の「トーチタワー」も完成する。これら物件への移転が続けば、既存ビルで空室が増す公算が大きい。
オフィス仲介大手の三鬼商事(東京都中央区)の調べによると、都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)に建つオフィスビルの平均空室率は3月時点で6・41%と前月比0・26ポイント上昇した。竣工1年未満のビルで成約が進んだ半面、大型ビルが空室を残したまま竣工。既存ビルでも縮小などによる解約が目立ち、空室の面積は2月より約7万6500平方メートル増えた。
一方、3月時点の平均賃料は1坪(約3・3平方メートル)当たり1万9991円と前月より0・11%下がり、59カ月ぶりに2万円を割った。ただ、これを新築ビルだけで見ると前月比0・85%高の同2万7172円と堅調さが見える。このため、不動産サービス大手JLLの大東雄人シニアディレクターは「空室を埋めるために賃料を調整するという局面は訪れない」と読む。
実際、東京・丸の内を筆頭に最先端ビルの需要は底堅い。グローバル企業が多い赤坂・六本木やIT企業が集まる渋谷でも、コロナ禍で急増した空室が賃料調整や“オフィス不要論”の見直しを追い風に急速に消化されている。テレワークと出勤を組み合わせた「ハイブリッドワーク」を取り入れながらも、増床によって共用スペースを充実させようとする動きも出ている。
JLLプロジェクト・開発マネジメント事業部の溝上裕二部長は「オフィスの本質は個人やチームのパフォーマンスを最大化すること」と説く。コロナ禍を経験した企業が求めるのは、自由な時間や働き方、社員の交流や共創を実現する場だ。これを追求した結果、環境負荷の低減はもちろん、働く人・訪れる人の快適性や健康にまで配慮した物件に人気が集まっている。
こうした付加価値は欧米で評価されていたものだが、コロナ禍を機に国内での関心も一気に高まった。特にグローバル企業では優秀な人材や投資の獲得に直結する要素ともされており、最近は「LEED」や「WELL」など国際認証の取得が入居要件という話も多い。ビルオーナーには相応の先行投資が必要だが英国やフランスでは賃料への上乗せも浸透しつつあるという。
売買市場での注目度も高まっている。JLLによると、22年の国内不動産投資のうち、46%をオフィスが占めた。緊急事態宣言が出された20年には先行き不透明感も出て32%まで落ち込んだが、完全に不動産投資における主役の座を取り戻した格好だ。「買い手の意欲は衰えておらず、大手町プレイスや電通本社ビルなど優良物件を待っている」(JLL)とみられる。