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九州大学が臓器の「線維化」促すたんぱく質特定、治療薬開発への今

九州大学が臓器の「線維化」促すたんぱく質特定、治療薬開発への今

線維化憎悪のスパイラル(九大・仲⽮道雄准教授提供)

臓器がどんどん硬くなってしまう「線維化」。線維化は、心筋梗塞や肝硬変、コロナウイルス感染後の肺線維症など先進国の全死亡原因の実に45%に関与しているとされる。だが、線維化に対する決定的な治療薬はいまだできていない。九州大学大学院薬学研究院疾患制御学分野の仲矢道雄准教授らは、臓器の線維化を促すたんぱく質を発見。これを標的とすることで、臓器の線維化に有効な治療薬の開発が期待される。(曽谷絵里子)

線維化は心筋梗塞や肝硬変、特発性肺線維症、慢性腎不全などさまざまな臓器の疾患に関与。膵臓(すいぞう)がんなどの難治性がんでは、がん周囲が線維化して抗がん剤がたどり着けない。仲矢准教授は、「線維化が関わる疾患は治療満足度も薬剤貢献度も低く、薬剤開発の重点領域」と強調する。

線維化はコラーゲンなどが過剰に蓄積した状態。正常な臓器の細胞では線維芽細胞がコラーゲンを適量作り、臓器に適度な弾力を生む。だが、炎症などに伴い、線維芽細胞が筋線維芽細胞に分化。すると大量のコラーゲンが産生され、臓器は硬くなり機能低下する。

線維化をどうにか止められないか。仲矢准教授は、正常組織にはほとんど存在せず異常な組織でのみ見られる筋線維芽細胞に着目。「これをターゲットにすれば、正常な組織には効かないため副作用リスクの少ない創薬を実現できる」(同)。

その研究過程で面白い発見をする。筋線維芽細胞を通常のプレートに培養すると底面に接着して成長する。これを低吸着プレートに移すと、底面からの物理的刺激を受けない浮遊状態で培養される。このとき、脱分化して筋線維芽細胞ではなくなっていたことが分かったのだ。通常プレートに戻すと再分化して筋線維芽細胞となった。

そこで、これらの細胞間で発現遺伝子を比較。その結果、物理的刺激を受けて分化した筋線維芽細胞にのみ発現するたんぱく質「VGLL3」を見いだした。心筋梗塞処置をして線維化したマウス心臓で、VGLL3が筋線維芽細胞に特異的に発現することを確認。ヒトにおいても、心筋梗塞後の線維化心臓でVGLL3が発現し、線維化を促すことが分かった。

線維化はどのように進むのだろうか。カギは“硬さ”にあった。仲矢准教授らは、VGLL3が物理的刺激を受けると核に移動してコラーゲン産生を促進することを突き止めた。筋線維芽細胞の周りには自ら産生したコラーゲンが大量に存在し、この硬さが物理的刺激となってまたコラーゲン産生が進む。こうして負のスパイラルとなり、いったん線維化が始まると雪だるま式に進行してしまう。

VGLL3をなくしたマウスでは線維化が抑えられた(九大・仲矢道雄准教授提供)

VGLL3の機能をなくせば線維化を抑えられるか調べるため、VGLL3を持たない(KO)マウスを作製。すると野生型(WT)マウスと比べ、心筋梗塞処置後の心臓でコラーゲン蓄積量が減少し、線維化の程度が軽減。さらにKOマウスでは心筋梗塞処置後の心臓機能が回復した。

仲矢准教授は、VGLL3を標的としてこの機能や発現を抑える化合物などの開発に取り組む。線維化治療薬の一日も早い実現に大きな期待がかかる。

日刊工業新聞 2023年08月28日

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