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健康診断・がん検診…活用進む医療AI、製品開発のカギは?

健康診断・がん検診…活用進む医療AI、製品開発のカギは?

両備システムズの早期胃がんAI診断システム。検査画像からがんの深さを判定することで、適切な治療法の選択を支援する

医療の効率化と高品質化を実現する技術として、人工知能(AI)を搭載した医療機器の開発が進む。特に、健康診断やがん検診で実施する内視鏡検査でAI活用の動きが広がっている。近年は大手医療機器メーカーに加え、ソフトウエア開発が得意なIT企業やベンチャーが参入し、医療機器市場で活躍するプレーヤーが増えつつある。医療データ取得や現場のニーズを反映した製品開発には、医療機関との連携がカギを握る。(安川結野)

AIM/病変部位をがん鑑別 スタンフォード大と協力

AIを搭載した医療機器は、プログラム医療機器に分類される。日本医療研究開発機構(AMED)は2027年の世界市場は23年の393億ドルから2倍以上の865億ドルにまで成長すると予測しており、国内外でさまざまな事業展開の機会が広がっている。

医療AIの開発を強みとするベンチャーのAIメディカルサービス(AIM、東京都豊島区、多田智裕最高経営責任者〈CEO〉)は、「胃がん鑑別AI」の実用化に取り組む。同システムは、内視鏡検査の映像から、病変部位ががんかどうかをAIが鑑別する。人の目では見極めが難しい胃がんの早期発見をサポートし、見逃しの低減や医療の均てん化への貢献が期待される。21年に厚生労働省へ承認申請を行っており、早期の実用化を目指す。

AIMは日本での承認申請と並行して、海外を視野に入れた取り組みに力を入れる。7月に米スタンフォード大学医学部と共同研究を開始した。日本のデータを元に開発したAIが米国の臨床でも使用できるかを検証する。現在、日本で申請中のAIに加えて他のAIモデルの使用も検討するという。5月には仏リヨン大学との共同研究も開始しており、欧米市場での事業展開を見据える。

胃がんは日本人やアジア人に多いが、AIMが欧米での事業展開に乗り出す理由について担当者は「米国も欧州も人口が多く、また人種の多様化が進んでおり、市場として大きい」と説明する。共同研究は製品の精度の検証だけでなく、現地の医師とのコミュニケーションが図れるメリットがあり、臨床のニーズを製品に反映することにもつながる。

両備システムズ/がんの深さで治療法判断

AI開発のノウハウを生かし、医療分野へ参入するIT企業も出てきた。両備システムズ(岡山市北区、松田敏之社長)は、内視鏡の画像からがんの深さを判別する早期胃がんAI診断システムを岡山大学と共同で開発した。早期胃がんは深度が浅ければ内視鏡での治療が可能だが、血管やリンパに達する深さであれば外科手術による治療が行われる。がんの深さの見極めと治療方針の決定は医師が内視鏡画像を見て行うため、経験などによりバラつきがあった。

同システムは岡山大が持つ約800症例の検査データを活用して開発。約80%でがんの深さを正しく診断でき、専門医と同等以上の結果だったという。同システムの実用化に向けて準備を進めている。

両備システムズはこれまで、主な事業領域としてシステム構築やソフト開発といった情報サービスの提供を行っており、16年からサービスへのAI活用に乗り出した。培ったAI開発のノウハウと近隣大学との連携により、臨床現場のニーズを反映した診断支援システムの開発が実現した格好だ。

日本の優位性

内視鏡データ集積 海外展開に期待 日本国内では14年にソフトウエアを使って治療や診断などを行うものとしてプログラム医療機器が医薬品医療機器等法

(薬機法)に示され、さらに20年には厚生労働省が「DASH for SaMD」(プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略)を策定するなど、AIを活用した医療機器の評価や規制の体制を整備した。

内視鏡の医療データが集積する日本は、内視鏡検査診断支援AIの開発に有利な環境といえる。こうした優位性を生かし、日本で開発した付加価値の高い製品を効率的に海外で展開していくことも可能だ。一方で、AIを活用したシステムの実用化は、オリンパス富士フイルムといった大手医療機器メーカーがリードしている状況だ。新規参入企業と大学病院などの連携促進や、承認申請手続きの支援体制などもプログラム医療機器の市場活性化には重要となりそうだ。

日刊工業新聞 2023年08月15日

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