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脱炭素で変わる資源外交、新燃料・重要鉱物…日本に試される交渉力

脱炭素で変わる資源外交、新燃料・重要鉱物…日本に試される交渉力

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世界的な脱炭素の潮流で資源外交が再構築を迫られている。化石燃料や鉱物資源に加え、水素や二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)といった新たな要素がからみ、資源国との向き合い方が変わっているためだ。こうした中、経済産業省は「グリーン・トランスフォーメーション(GX)を見据えた資源外交の指針」を策定した。資源が乏しい日本にとって経済や産業に直結する課題であり、施策の具体化が急務だ。(編集委員・池田勝敏)

水素エネ、チリなど台頭

資源国の立ち位置が変わっている。代表例はチリだ。チリは銅の生産量で世界1位、リチウムで2位を誇る。日本にとっても銅や炭酸リチウムの最大輸入先であり、長年重要な鉱物資源国との位置付けだった。一方で日射量が多く風力の潜在性も高いため、最近は再生可能エネルギー大国としても注目される。

「鉱物だけでなく再生エネも加わって国際的な立場が強くなっている」(資源エネルギー庁幹部)ことを背景に、チリ政府は、再生エネ由来の「グリーン水素」を世界で最も安価に生産できる体制を2030年までに構築、40年までに水素輸出国トップ3入りを目指す戦略を掲げた。グリーン水素工場に補助金を出し民間投資を後押しする。

チリ南部では独政府がポルシェ、シーメンスなどと風力発電由来の水素を使って合成燃料を作るプロジェクト「ハル・オニ」を始動するなど「水素外交」を積極化する国もあり、日本は鉱物だけでなく「鉱物+クリーンエネルギー」資源国としてチリとの関係性を捉え直す必要がある。

一方、チリ政府は4月に国家管理下でリチウム開発を進める戦略を発表し、資源国有化の動きも見せている。リチウムは経済安全保障上の重要性が高まっている蓄電池に欠かせない。リチウムに限らず重要鉱物資源は「クリーン技術の普及が進む中で、安定供給が不可欠となり、新たな地政学的リスクの原因となっていく」と日本エネルギー経済研究所の久谷一朗研究理事は指摘する。

日本、関係深化へ指針

こうした資源外交をめぐる情勢変化を踏まえて経産省が策定した資源外交の指針では、分析対象国として25カ国を選定。国内情勢や対日関係などの観点から、「包括的連携国」「環境整備国」など5グループに分けてグループごとに資源外交アプローチを示した。チリが属する「伝統的安定供給国」に対しては、在来型の資源を継続的に確保しつつ、従来の関係を新燃料分野へ拡張するという。

サウジアラビアもチリと同じ「伝統的安定供給国」に属す。サウジアラビアは鉱物資源が豊富なアフリカとの歴史的な関係を生かして、「アフリカと世界を中継し、鉱物サプライチェーン(供給網)の中心になろうとしている。そのために日本の商社を研究している」(エネ庁幹部)という。世界有数の石油産出国という従来とは異なる側面を見せており、新たなアプローチが必要だ。「包括的連携国」は米国や豪州、カナダが属し、新燃料に関わる新たな市場ルールの整備や技術開発で連携して第三国に展開するとしている。

「単に投資するのではなく人材育成や技術移転、インフラ整備といった日本ならではの総合的な支援で資源国と互恵的な関係を築き、鉱物資源を確保していく」。今月アフリカ5カ国を歴訪した西村康稔経産相はこう話す。脱炭素の世界的な潮流で重要鉱物の争奪戦は激しさを増しており、日本の強みを生かした資源外交がこれまで以上に求められている。

レアメタル確保が重要/経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部長の定光裕樹氏

―資源外交の指針を策定した狙いは。

「これまでは資源外交と言えば中東などから石油、天然ガスをいかに安定的に調達するかが主眼だったが、化石燃料に加えて新燃料を確保する必要が出てきた。一方でエネルギーから鉱物へという流れも起きている。化石燃料の消費を抑えるとなると電化が必要となり、蓄電池の重要性が増す。蓄電池にはレアメタル(希少金属)などの鉱物が欠かせない。電気自動車(EV)のモーター磁石や水素利用にもレアメタルが必要だ。化石燃料から新燃料、エネルギーから鉱物という、構造変化に対応しなければならない」

―化石燃料も引き続き重要です。

「化石燃料に対し行き過ぎたダイベストメントの風潮があり、安定調達がリスクにさらされている。化石燃料は今まで以上に慎重に力を入れる必要がある。そうした中で日本にとって重要な国はどこか。どのタイミングでどの燃料が必要になるかといった時間軸を含めて整理したのが今回の指針だ」

―経済安全保障の観点も入れました。

「特定国にサプライチェーンを依存することのリスクが認識されるようになり、その対応も欠かせない。各国政府が脱炭素に力を入れるのは、自国の産業や雇用を守る狙いもあり、産業政策競争が激しくなっている。これからの資源外交ではこうしたことも考慮しないといけない」

―選定した25カ国に中国が入ってません。

「日本への供給国という視点で選定した。中国にエネルギーを供給する余裕はない。日本企業の投資関心度も加味しておりロシアも入ってない。一方で中国はレアアース(希土類)の重要な調達先だ。中国の依存度が高いことから、引き続き下げていく方針を指針に盛り込んだ。25カ国の枠で捉えずに特別な扱いとした」

―指針に基づいて具体的にどのように政策を展開しますか。

「化石燃料とセットでCCSの適地を確保する。天然ガスの生産時に排出されてしまうCO2の対策として、豪州ではガス生産にCCSを義務づける議論が始まっている。化石燃料を獲得する上でCCSが重要になる。新燃料については、これから市場が立ち上がるSAF(持続可能な航空燃料)で日本企業にメーンプレーヤーになってもらうために、支援策を展開する。またエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援対象にバイオ燃料を新たに追加する方向だ」 

―鉱物資源は。

「競争が特に激しい。蓄電池に使う鉱物の供給が追いつかなくなる恐れがある。開発のアーリー、ミドル、レーターの各段階を切れ目なくおさえなくてはいけない。自動車や電池メーカーと組んで権益を取りに行く」

日刊工業新聞 2023年08月17日

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