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日本化学会がCTOサミット、公の場で聞いた「内緒話」

日本化学会がCTOサミット、公の場で聞いた「内緒話」

CTOサミット。旭化成と住友化学、三井化学、三菱ケミカルグループ、レゾナックのCTOと経産省幹部が議論した

日本化学会が化学各社の最高技術責任者(CTO)と経済産業省幹部を集め、研究開発の方向性を探る場を設けている。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)のように1社では到底実現できない課題に向けて知恵を出し合うためだ。産業界で競争が始まる前の協調可能なテーマを抽出し、学術界と研究企画を練る。CTOたちから本音を引き出すため、情報はすべて匿名で発言者は伏せられる。公の場での内緒話を聞いた。(小寺貴之)

「大学研究者はしばしば自分のやりたいことに終始してしまう。『学術界にはこんなことをやってほしい』という忌憚のない意見がほしい」―。日本化学会の菅裕明会長・東京大学教授は企画の趣旨をこう説明する。

日本化学会は化学5社のCTOを集めた「CTOサミット」を開いた。初回のテーマはCN。各社はナフサクラッカーの燃料転換や二酸化炭素(CO2)からの化成品製造、プラスチックのケミカルリサイクルなどの開発状況を紹介。産学で協調できるテーマを模索した。連携を呼びかける声に対し、「所管省庁との対話でさえ話せない内容はたくさんある」。最初にこぼれた本音はこんな現実論だった。

同業との水平連携は簡単ではない。それならばとサプライチェーン(供給網)の上下に視野を広げて協調点を探した。するとカーボンフットプリント(製品全般の排出量)の妥当性検証、資源循環に向けた静脈産業の強化などが挙がった。例えばリサイクルのために電線の被覆を剥ぎ分別する作業は人件費の安い中国に頼ってきた。これがさまざまな理由で依存できなくなっている。「完全に止まると致命的」とされる。対応技術が不可欠だ。

他にも「マイクロプラスチックは炭素資源」という指摘もあった。大気からのCO2直接回収(DAC)のように、低濃度プラを集めて資源化する技術は将来価値が認められるかもしれない。日本ではプラスチックリサイクルの社会システムがすでに機能しており、大元の流出を抑えるシステムと低濃度プラの回収技術を併せて提供すれば世界への貢献は大きい。

CTOサミットは経営トップ同士のアイデア出しの側面がある。研究企画はこれからだが、化学各社が協調してサプライチェーンの上流下流に働きかける起点になりうる。

なにより産業界がやりたくても躊躇(ちゅうちょ)してしまう技術は学術界にとってはチャンスだ。先に技術の概念実証(PoC)をなし、技術の妥当性検証に必要なデータ基盤を整えれば、彼らが顧客になる。

そして中立的な学術界を基点として世界から顧客を集められる。海外では学術界から中立的な基盤データを提供し、応用開発などの実サービスは産業界が担う分業が広がっている。内閣府総合科学技術・イノベーション会議の議員を務める菅会長は「国として後押しすれば産業競争力強化につなげられるはず」と思案する。三菱ケミカルグループのラリー・マイクスナーCTOは「期待以上に面白かった。刺激的で考えさせられた」と振り返る。“内緒話”がどんな形で実るか注目される。

日刊工業新聞 2023年08月02日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
胸襟を開いてざっくばらんに話すなんてほぼほぼ不可能ですが、目標の設定次第で話せることはあるはずです。例えば目の前のお客さんは性能とコストのことしか言わないかもしれません。でも、お客さんのお客さんはヒントをくれるはずです。電機製品の場合、素材、デバイス、システムと、レイヤーが変わると設計代行や品質保証代行など、営業努力として行っている技術サービスが複雑怪奇になっていきます。例えば部材を売っているのに部材の品質保証でなくて、部材を組み込んだモジュールの品質を保証してたりします。それってもうモジュール開発じゃないのかなと思いつつ、こうした技術サービスをデータ駆動型開発で負荷を抑えて提供できるといいのかもしれません。そのためにはどんなデータが必要なのか。例えばアカデミアがどこに出しても大丈夫なデータを整えて最初の一歩を試してから、会社との開発に進む仕組みができないのか。そんな中抜き支援を国内でやったら大変なので、海外勢が強いところで仕掛けられないのか。そんな妄想が膨らんでしまいます。海外だと妄想でなく普通にやってるのかもしれません。

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