最終製品の「モノ余り」…電子部品大手の業績に浮上した新たなリスク
最終製品の「モノ余り」が電子部品大手の業績の新たなリスクとして浮上している。中国・欧米ともに景気の減速感が強まり、幅広い最終製品で供給過剰感が台頭。スマートフォン(スマホ)メーカーなど顧客の部品在庫削減は進展しているが、実需が期初想定ほど戻っていない。各社は2023年度下期に前年同期比で増益に転じるとの見方を崩していないが、成長のけん引役に欠ける中、回復は緩やかな「U字」にとどまりそうだ。
2023年4―6月の大手6社の連結営業利益の合計は前年同期比26%減の1740億円だった。マイナス幅は1―3月の90%減より縮小したが、低位横ばいが継続。TDKは通期の営業利益予想を前期比11・2%減の1500億円に下方修正した。増益としていた従来予想から一転、減益になる見通し。4―6月は日米金利差の拡大を背景に円安が再加速し、電子部品各社もコスト削減や原材料上昇分の価格転嫁に努めたが「一連の増益要因を減益要因が大幅に上回った」と大和証券の佐渡拓実チーフアナリストは話す。
最大の減益要因は幅広い最終製品の需要の下振れだ。中華系スマホやノートパソコンメーカーの部品在庫削減はピークを迎えている。4―6月は本来なら実需に見合った受注が電子部品メーカーに入り、積層セラミックコンデンサー(MLCC)など受動部品を中心に出荷が回復する局面だが、足元の回復速度は「想定以上に緩やか」(村田製作所の村田恒夫会長)。同社の4―6月のBBレシオは0・98倍で、活況の目安とされる1に届かなかった。中国景気の失速で企業収益や雇用の改善が遅れ、先行き不安が高まった結果、家計が貯蓄を優先。中国国内のスマホの買い控えが収まらない。
アルプスアルパインの小平哲専務執行役員CFO(最高財務責任者)は「中国などで白物家電など民生向けのタクトスイッチの売り上げがピークから3割程度減った」と話す。中国では住宅の販売不振で、新居購入時に買い替えが進みやすい家電など耐久財の消費が落ち込んでいる。オムロンの竹田誠治取締役執行役員常務CFOは制御機器や電子部品について「中国では代理店がキャッシュフローの悪化で購入を控え始めており、米国でも金利上昇に伴い設備投資のタイミングを見直している」と説明。産業機器などに使われる汎用スイッチの需要低下につながった。京セラの青木昭一執行役員常務は「北米でスマホの価格上昇に伴って買い替えサイクル長期化が進んでいる」と話す。
電気自動車(EV)市場は拡大したが「EVメーカーが(コロナ禍以降)積み増していた部品在庫を通常水準に戻した結果、(一時的に)実需より受注が減った」(齋藤昇TDK社長)のに加え、売り上げに占める比率もまだ小さく、スマホなどの落ち込みを補い切れない。
7―9月期は例年、年末商戦に向けてMLCCなど受動部品の需要が膨らむ。ただ今期は景色が異なる。オムロンの竹田常務は「7―9月から緩やかに需要回復すると想定していたが下期にずれ込みそうだ」と説明。村田製作所の中島規巨社長も「中国の顧客と直接面会しているが需要回復の強さをまだ感じていない」と慎重な見方を示す。大和証券の佐渡チーフアナリストは電子部品各社の利益が前年同期比で増益転換するのは「下期(23年10―24年3月)に持ち越しになる」という。
電子部品メーカーの在庫削減の遅れも懸念要因だ。6社合計の棚卸資産は4―6月で2兆4724億円と、1―3月から微増した。円安で膨らんだ側面はあるが、需要の回復局面に大幅値下げで在庫削減を進めようとする企業が出れば、市況悪化につながる可能性がある。電子部品各社はコスト削減や価格是正を継続しつつ、独自の成長シナリオを具体化する力が求められる。
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