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同意なきTOBの可能性も、ニデック「TAKISAWA」買収提案の影響度

同意なきTOBの可能性も、ニデック「TAKISAWA」買収提案の影響度

ニデックドライブテクノロジーのプレス機「SX-30-900」

工作機械業界でニデックの存在感が増している。9月中旬に計画する老舗工作機械メーカー、TAKISAWAへのTOB(株式公開買い付け)が成功すれば、ニデックの工作機械事業は売上高で約1000億円規模に達し、業界大手の背中が見えてくる。加えて今回の買収は現時点でTAKISAWAの同意を得ておらず、同意なきTOBとなる可能性もある。今回の買収提案は、他の工作機械メーカーの経営戦略にも影響を及ぼしそうだ。(京都・新庄悠、岡山支局長・清水信彦、西沢亮)

事業売上高1000億円規模に

「1年以内にグローバルであと数社買収していく」。ちょうど1年前、永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)がこう宣言した通り、ニデックは工作機械メーカーのM&A(合併・買収)を加速している。2月に横中ぐり盤などを手がける伊PAMAを買収、さらにTAKISAWAへのTOBを表明した。同社は旋盤の老舗メーカーで「旋盤と研削盤が足りない」(西本達也ニデック副社長)としてきたラインアップを埋めることになる。

2021年以降、ニデックは歯車加工機械の三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)、マシニングセンター(MC)のOKK(現ニデックオーケーケー)と、相次ぎ工作機械メーカーを傘下に収めてきた。しかし旋盤は、工作機械市場の約3割を占めるボリュームゾーン。業界に対するインパクトはこれまで以上に大きい。

小型モーターなど部品メーカーであるニデックが工作機械に乗り出したきっかけは、電気自動車(EV)用駆動装置など自社製品の競争力確保のため。製造に必要な工作機械を内製化することが狙いだった。しかしニデックは“変心”。「(工作機械で)世界のトップになるのは難しくない」(永守会長)とビジネスチャンスを見いだした。プレス機械や減速機を含む機械事業で30年に売上高1兆円の達成を目指す。

M&Aを繰り返してきたニデックにとり、高い技術やブランドを持ちながら企業価値を高められない老舗企業の買収は得意とするところ。コンピューター数値制御(CNC)旋盤のグローバル企業だが、TOB表明時点で株価純資産倍率(PBR)が約0・5倍にとどまるTAKISAWAは、格好の買収対象といえた。

ニデックは「意向表明書」で、TAKISAWAが25年3月期を最終年度とする中期経営計画で掲げる連結売上高目標310億円に対して、「単独で達成することは極めて難しい」と突きつけた。そしてニデック傘下に入ることでシナジーが生まれ、欧米市場の強化やハイエンド機の迅速な開発などが可能になると提案する。

また今回のTOBで注目されるのは、事前同意の有無。08年に東洋電機製造へのTOBを断念した以外は、すべて相手先と合意した上でM&Aを進めてきた。ただ15年前と異なるのは、同意なきTOBに対する市場の見方だ。経済産業省が6月に公表した「企業買収における行動指針(案)」では企業価値を高める買収提案を評価し、買収対象となった経営陣には「真摯(しんし)な検討」が求められる。M&Aを成長エンジンとしてきたニデックにとって、「もっと大きな会社を買える可能性が高まる」(同)と、この市場の変化は追い風となる。

TAKISAWAは旋盤を主力とする

ニデックは22年1―3月にかけTAKISAWAに資本業務提携を提案したが、「けんもほろろに断られた」と永守会長は話す。現時点でTAKISAWAの経営陣は、ニデックの提案に対して賛成とも反対とも意見を公表していない。ただTAKISAWAの大口個人投資家は「今回のニデックの提案は渡りに船だ」と評価する。

22年10月時点で日刊工業新聞の取材に対し、TAKISAWAの原田一八社長は「工作機械業界は会社が多過ぎる。少し変わらないといけないし、どこかが統合集約しないといけない」と指摘。その上で「M&Aは、やる方もやられる方も検討しないといけない。やられる方は、嫌なら株価を上げないと。(一般的に)投資家は工作機械業界をあまり評価していない。やはり本業を伸ばす必要がある」と話していた。仮にニデック傘下入りを拒否するならば、ニデックの提案を上回るような具体的な企業価値向上策を打ち出す必要がある。

焦点は、ファナックや中国銀行といった既存大株主がどういう判断を下すか。特にファナックは、ニデックと同じくモーター大手という側面も持ち、工作機械やロボットの制御用途で高いシェアを持つ。今回のTOBはニデックとファナックが今後どう向き合っていくのか推し量る例にもなりそうだ。

再編余地大きく

経産省は1月、経済安全保障推進法に基づき、「工作機械及び産業用ロボットに係る安定供給確保を図るための取組方針」を公表。電気自動車(EV)といった脱炭素関連製品などの需要が高まり、国内外で工作機械に求められる役割は質・量ともに中長期での拡大が想定されるとした。世界全体の21年の生産額は803億ドル(約11兆円)、国産工作機械の21年の受注額は1兆5000億円とする調査結果も紹介。今後の世界需要は25年に21年比1・2倍、30年に同1・6倍になるとの推計も示した。

日本の上場企業では売上高でDMG森精機が4000億円を超え、牧野フライス製作所とオークマがそれぞれ2000億円を上回る。ジェイテクトは工作機械部門の売上高が1800億円を超え、全売上高が1000億円弱のツガミが続く。

こうした工作機械業界の市場環境をニデックは、1兆数千億円の市場に100社以上のメーカーがひしめき、不況時には厳しい価格競争に至っていると指摘。一部の大手を除き、長期的戦略に基づく継続的な成長投資が行えておらず、国内工作機械メーカーの多くは「競争力を欠き、低成長のサイクルに陥っている」と分析する。

永守氏「中国対抗に規模必要」

20日の会見で永守会長は「これ(TAKISAWAへのTOB)は敵対的とかではなく、日本の工作機械業界が中国に負けないように、戦っていける規模にもっていかないと(いけないという思いもある)」と話した。また「必ず日本の社会は大きく変わってくる。正々堂々と正門から入って行って会社が買える社会になってもらわないとだめ」と強調した。

これまでニデックは三菱重工工作機械やOKKといった業績が悪化していた企業の買収をしてきたが、黒字を確保しているTAKISAWAへのTOBという意味で従来とは異なる。

ある工作機械メーカー幹部は「明確な成長戦略を描き、実行できなければ買収対象になり得る」と受け止める。

ニデックは世界トップの工作機械メーカーグループになるとの目標を掲げており、明確なシナジーを前面に出した買収提案が続くことも予想される。独立経営を志向する工作機械各社にとっては、黒字確保にとどまらず、株主を中心としたステークホルダー(利害関係者)を納得させられる成長戦略を描き、着実に実行することがより一層重要になりそうだ。


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日刊工業新聞 2023年07月21日

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