ワイン用ブドウ栽培と生物多様性向上を両立、メルシャン流「ネイチャーポジティブ」
メルシャン(東京都中野区、長林道生社長)がワイン用ブドウの栽培と生物多様性の向上を両立させている。事業活動と一体となって生態系を再生させており、自然回復を優先する世界目標「ネイチャーポジティブ」の実践例となる。生物多様性の質の高い農園での生産は、日本産ワインの付加価値にもなりそうだ。
メルシャンのブドウ農園「椀子(まりこ)ヴィンヤード」は長野県上田市の標高650メートルの丘陵地にある。年間を通じて日照があり、風も吹くためブドウ栽培に適した土地という。
農園は30ヘクタール。ブドウの木の根元は、多様な植物が生えた草地となっている。果樹農家で採用が増えている草生栽培だ。植物から土壌へ有機物を補給でき、根の力で大雨による土壌流出を防げる。下草が生えたままなので、他の雑草の繁茂も抑える。化学肥料や除草剤の使用を削減でき、環境や人の健康への悪影響を減らせる。
生物多様性の面でも効果がある。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の楠本良延上級研究員とキリンホールディングスとの共同調査で植物288種、昆虫168種、チョウ35種、鳥23種が確認された。野鳥の飛来が生態系の豊かさを証明している。メルシャンは大型チョウ「オオルリシジミ」を呼び込む活動も始めた。オオルリシジミの幼虫が食べる多年草のクララを農園に植えている。
椀子ヴィンヤードの開業前、現地は遊休荒廃地だった。人の手が入らなくなった土地は植物が無秩序に繁殖し、生態系が失われる。メルシャンが草生栽培によるブドウ栽培を始めたことで良好な草地となった。
楠本上級研究員は「日本では草原の生物が絶滅の危機にある」と警鐘を鳴らす。草原は国土の3割を占めていたが、戦後の開発で1%まで激減したためだ。その点「ブドウ農園は良好な草地。ワイン生産と生物多様性が両立している」と太鼓判を押す。椀子ヴィンヤードは、環境省が生物多様性の質が高い土地を「自然共生サイト」として認定する試行事業で認定相当に選ばれた。
ネイチャーポジティブが生物多様性の世界目標となり、企業にも自然回復が求められている。メルシャンは他の農園でも草生栽培に取り組み、ネイチャーポジティブを実践中だ。