トヨタが「燃料電池」収益化急ぐ…カギは日本の水素市場にあり
トヨタ自動車が燃料電池(FC)事業の収益化を急いでいる。2026年の実用化を目指す次世代FCシステムでは、30年に商用車向けを軸に最大20万台の供給を見込むと同時に、コストの半減を目指す。主戦場は、水素の拡大戦略に急激にかじを切る欧米や中国といった海外だ。対する日本も重点領域に掲げるが、規模では海外勢に大きく見劣りする。技術基盤を日本に置き、FCの先行開発で優位性を保ってきたトヨタ。国際競争を勝ち抜くには、日本の水素市場拡大も重要になる。(編集委員・政年佐貴恵)
トヨタは長距離走行による水素の大量消費が見込め、運行計画と合わせて経路上への水素ステーション設置や充填予定管理がしやすい商用車向けを、FCシステム事業の中核戦略に据える。11日に開いた水素事業に関する説明会で、水素ファクトリーの山形光正プレジデントは「まずは(FCシステムの)量をまとめて価格を下げることに主眼を置き、水素を一刻も早く持続性ある事業にする」と力を込めた。
次世代FCシステムでは、すでに30年に10万台の受注見込みがあるという。商用車向けが占める割合は8割以上。量産効果などにより37%のコスト低減を目指す。
さらに市場拡大を見込む欧米や中国での拡販や、独ダイムラー・トラックとの協業検討などを通じ、20万台まで上積みしたい考えだ。
生産面でも革新を図る。小型商用バンから大型トラックまで、用途に応じてセルの枚数や大きさを変えながらも、同じ生産ラインで製造できる技術を導入する計画。中嶋裕樹副社長は「スケーラブルなFCシステムを、大量に安定品質で作れる生産技術もアドバンテージになる」と見る。
14年に世界初の量産型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を市場投入したトヨタは、技術の優位性でFC分野を先行してきた。水素ファクトリーの浜村芳彦チーフプロジェクトリーダーは「耐久性と高い変換効率を両立できる技術が我々の強みだ」と説明する。
ただ、これまでは高いコストが障壁となり、普及拡大が進まなかった。採算ラインに乗る生産量の目安は、年1万台規模。「中国、欧州でしっかり台数を出してコストを下げる」(中嶋副社長)。FC技術での世界標準を狙う上でも規模の拡大は重要だ。
水素の国際競争が激しくなる中、日本も6年ぶりに水素基本戦略を改定し、30年の水素消費量を最大300万トンとするなどの方針を打ち出す。ただ、その規模は欧米や中国と比べて8分の1以下にとどまる。浜村チーフプロジェクトリーダーは「日本で技術を作って世界に広げる」と、技術基盤を確立するためにも一定の市場規模が必要との認識を示す。資源確保が難しく水素価格の低減が進まない日本ではハードルが高いが、山形プレジデントは「日本に合った水素の作り方はある。日本全体で取り組まねばエネルギーセキュリティーの問題は解決しない」と訴える。
他にもトヨタは、開発中の水素エンジン車について「ある地域での市場投入を前提に開発を進めている」(中嶋副社長)ほか、FCVへの液体水素の適用も検討するなど、水素関連技術での先行を狙う。
「技術で先行してもビジネスで負ける」と言われてきた日本。水素関連の先進技術を日本としての競争力にもつなげられるかは、市場形成の行方にかかる部分も大きい。
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