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理工系250校支援、「大学は刺激がないと変化が遅いだけに、有効な策」

主張/東京都市大学学長・三木千寿

政府の科学技術政策と大学の経営改革を連動させた、文部科学省などによる大規模な3事業が動いている。頂点は10兆円の大学ファンドで支援する国際卓越研究大学の新制度だ。これに次ぐ研究力重視の大学向けが「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」で、応募が開始され東京都市大学も注目している。

三つ目がデジタル・グリーンなどの成長分野強化に向けた「大学・高専機能強化支援事業」だ。補正予算で約3000億円、私立大学等経常費補助金と同レベルの金額に驚いた。この中に二つのメニュー、つまり大学院中心で国公私立問わない情報系の強化と、私立・公立大の理工系学部・学科への再編がある。本学はこれらも重視している。

私立・公立大の理工系強化は250校支援でかなりの数だ。日本の大学は国立大86校、私立大620校、公立大101校(2022年度学校基本調査より)であるから、国内大学の3分の1に相当する。ただし既存組織での定員充足率が低過ぎると対象外だ。

全学合わせ実際の学生数が定員を下回る「定員割れ」は、全国の私立大の約4割で生じている。学生確保に大きな問題を抱える大学は、理工系への転身の後押しも得られないまま、退場を迫られる事態になるかもしれない。18歳人口が大幅に減っていく中、以前からの教育だけで、経営を維持していくことは難しい。

支援額は施設整備を含めて数億―20億円。本学のような中規模大学には魅力的だ。もちろん補助金につられ、大学を壊してはいけない。しかし大学は刺激がないと変化が遅いだけに、有効な策だと感じる。

本学は近年、文科省の私立大向け改革プログラムに数多く採択され、改革の土台ができている。最初の転機は、前身の武蔵工業大学が97年に環境情報学部を作ったことだった。

09年に統合した東横学園女子短期大学は家政、生活科学などから文理融合的な都市生活と人間科学に再編。さらに建築都市デザイン、今春のデザイン・データ科学などの学部を設置してきた。このような変化が求められているのではないか。

一方で理工系においても注意が必要だ。「先端」「境界領域」の先進性は、10年も経つと垢(あか)が付いてくる。今の社会で求められる教育・研究を真剣に考え、変わり続ける意識が重要だ。

【略歴】みき・ちとし 72年(昭47)東工大院理工学研究科修士修了、同年工学部助手。90年教授、05年副学長。12年東京都市大特任教授、13年副学長。15年学長。工学博士。徳島県出身、76歳。

日刊工業新聞 2023年07月03日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
政府の理工系強化施策に多くの大学が動いている。中でも東京23区規制(地方大学への配慮から、23区内の大学の定員増は時限的に不可とされている)が、デジタル案件に限って緩和となり、東京都市部の理工系大学は策に頭をひねる。先には東京工業大学で、最速の24年度での情報系の定員増が認められた。東京都市大の場合、すぐ近くの多摩川で神奈川県と東京都と分けられるが、同大キャンパスは東京都側の世田谷区。それだけに理工系強化へ、大いなる積極策が期待されそうだ。

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