近鉄GHDが進める地域コラボ・デジタル化、背景にあるコロナ禍の教訓
近鉄グループホールディングス(GHD)はコロナ禍から回復しつつある事業環境で、飛躍に向け新たな事業展開を積極化している。地元企業などと協力しての沿線活性化や、顧客の利便性向上に向けたデジタル化に力を入れる。一方で、コスト構造改革を進め損益分岐点の引き下げを図っており「財務体質強化で収益力を拡大する」(若林敬取締役専務執行役員)という。将来の成長に向け事業基盤の基礎固めを図る。(大阪・市川哲寛)
2023年度は鉄道の輸送人員で平年比約85%、直営ホテル売上高は同約90%、百貨店売上高は19年度比約90%に回復すると想定する。そうした中で、近畿日本鉄道が地元企業や自治体とのコラボレーション企画を増やし、沿線の活性化に努めている。例えば、中川政七商店(奈良市)とは観光特急「あをによし」のツアーや刺しゅうハンカチなどのグッズ販売で奈良への誘客を図った。奈良県宇陀市とは駅に停車中の電車内で地元事業者の商品を販売するマルシェを開いた。
デジタル化では近畿日本鉄道が旅のコンテンツポータルでフリーパスを扱いスマートフォンで乗車できるようにした。近鉄不動産はメタバース空間「バーチャルあべのハルカス」を開設するなど顧客とつながる仕掛けを増やしている。顧客の利便性を高めるとともに商売機会の確保や創出を積極的に図る。
近鉄GHDの事業は消費者向けが大勢を占めていて「コロナ禍でリスクが具現化した」(若林取締役専務執行役員)。このため鉄道ダイヤの変更や駅運営の合理化、駅ナカの不採算店舗撤退、郊外や地域中核の百貨店のローコスト運営推進、ホテルの資産売却などの構造改革を進めてきた。加えて事業者向けの国際物流事業を中核事業に追加し、グループ全体の事業構造も変化した。
23―24年度はアフターコロナの経営改革セカンドステージとして「財務健全性を図り、高いレベルを目指して段階を踏んで成長する」(同)構え。23年度の設備投資は運輸や不動産など各部門で大幅増として22年度比88・1%増の720億円を計画する。
関西では25年の大阪・関西万博、29年以降の統合型リゾート施設(IR)開業を控え、中長期的な経済成長が見込める。国内外からの多くの誘客へ「万博やIRの目線でターミナルの姿を模索する」(同)のに加え、万博やIRのできる大阪市の夢洲地区へ近鉄から直通できる車両を開発する方針。沿線の魅力を高めるなどして交流人口増による需要を確実に取り込み、25年度以降の次期中期経営計画では営業利益を22年度比49・3%増の1000億円以上を目標とする。