TSMC進出で地銀に商機あり、関連需要湧き出る
世界最大手の半導体受託製造企業・台湾積体電路製造(TSMC)による熊本県への進出を受け、地場金融機関の事業展開が活発になっている。半導体関連産業が集積する「シリコンアイランド」という環境も手伝い、国内メーカーも九州で設備投資を加速する。九州に本社を置く地銀グループ3社は総力を挙げて需要の取り込みに動く。(西部・三苫能徳、九州中央・片山亮輔)
TSMCがソニーグループなどと熊本県菊陽町に建設中の日本工場は、2024年末の稼働を予定する。建屋完成に向け大規模工事が進み、関連需要が地元で湧き出ている。
「非常に波及効果が大きい。主体的に県内企業のサプライチェーン(供給網)参入や県外企業をサポートしたい」。本社を熊本市に置く九州フィナンシャルグループ(FG)の笠原慶久社長は、TSMC進出に関連して動く企業の後押しに地元行として意欲を見せる。
九州FG傘下の肥後銀行は4月「半導体クラスター推進室」を設立。進出企業など電子デバイス関連産業に向けた支援体制を強化した。すでに従業員向け物件の住宅ローン、企業への融資を実施し合計で950億円程度の見込み案件を抱える。
同じく傘下の鹿児島銀行も含め、台湾・玉山銀行と業務提携を締結。現地との接点強化にも積極的だ。6月下旬には肥後銀が台湾に事務所を開設し、企業進出や取り引きの拡大を支援する。笠原社長は「観光や農業分野のニーズも獲得したい」と意欲を見せる。
九州でシェアを取り合う地銀2行も旺盛な需要に対して態勢を整える。
熊本銀行を擁する、ふくおかFGはTSMC進出に伴い、21年に専門部隊を設けて需要を捉えてきた。五島久社長は「住宅や不動産関連、資金需要など融資実行からの収益は積み上がりつつある」と手応えを得る。「どこまで増えるかは今後の動き次第。しっかりやる」と強調する。
台湾金融大手の中国信託フィナンシャルホールディング(CTBCFH)と業務提携も結び、グループ同士の総合的な連携を目指す。3月には手始めに熊本市で「台湾ビジネスセミナー」を共催した。
西日本フィナンシャルホールディングス(FH)も、傘下の西日本シティ銀行とともに需要を掘り起こす。西日本FHの村上英之社長は「建設、不動産が先行する形で400億円超の資金ニーズを聞いている」と話す。
22年にグループ入りした九州リースサービスも貢献する。工事で建設機械のリースが好調なほか、「TSMCに納入する外資系メーカーの倉庫について相談がある」と礒山誠二社長は明かす。また鹿児島の半導体メーカーにもアクセスしやすいように、熊本県に近い鹿児島県内でも倉庫需要があるという。
九州には半導体関連が約1000社立地していると見られている。ソニーグループや京セラ、三菱電機はじめ、国内メーカーも九州各地で設備投資を積極化する。
日銀福岡支店の浜田秀夫支店長は、九州の経済回復に半導体関連の活発な投資が寄与するとし、「九州・沖縄の半導体投資は(海外経済の減速見通しなど)目先と逆の動き。だが臆せず投資するのは、中長期での回復を見通しているからだ」と分析する。
産業のコメと称される半導体。九州の立地環境という“土壌”、そして金融機関による資金供給という“水やり”を通じ将来の豊かな実りが期待される。
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