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ネット勃興期を彷彿、世界に衝撃「チャットGPT」に見るAIの未来

ネット勃興期を彷彿、世界に衝撃「チャットGPT」に見るAIの未来

チャットGPTの登場はAIへアクセスするハードルを引き下げた

米オープンAI(カリフォルニア州)が提供する人工知能(AI)チャットボット「チャットGPT」が盛況だ。生身の人間のような自然な対話や膨大な学習データに基づく質疑応答に世界中が沸き、サービス公開から2カ月で利用者が1億人を突破。さらには文章の生成や翻訳などの多彩な機能についても皆がどう使いこなすかを次々と試している段階だ。その先に見えるのはAIの進化に伴う新しいパラダイム(価値観などの枠組み)だ。(編集委員・斉藤実)

「AIに対するアクセスのハードルが一気に下がった。これを契機にAI活用が爆発的に広がりそうだ」。日本IBM理事の福田剛志東京基礎研究所所長は、チャットGPTがもたらす波及効果についてこう語る。

インターネットの歴史になぞり「米ネットスケープのウェブブラウザーが登場し、誰もがインターネットにアクセスできるようになった当時(1994年)を彷彿とさせる」(福田理事)といった声は多い。

皆が予見するのはAIの未来の可能性だ。海外の巨大クラウドベンダーで開発担当を歴任した波村大悟フライウィール取締役最高技術責任者(CTO)は、日々の生活を飛行機の操縦に例え「誰もがAIを“人生のコーパイロット(副操縦士)”のように使う時代が来るかもしれない」と展望する。

チャットGPTはAPI(応用プログラミングインターフェース)連携により、業務アプリケーションでの活用も始まっている。人とITとの関係性において「対話そのものがインターフェースとなる時代」(波村CTO)が目の前にある。

技術支える「基盤モデル」 短時間で大規模学習

AIは「ビッグデータ(大量データ)×計算パワー」をエンジンとして進化を遂げ、2010年頃には「ニューラルネットワーク(NN)」と呼ばれる、人間の脳神経系を模した機械学習アルゴリズム(算法)を駆使する「深層学習」が主役の座に躍り出た。

ただ、事前にコンピューターに正解を教える「教師学習」の際に、データのラベル(分類や識別の印)付けを人手で行うため、「用途(タスク)別に学習データを集める作業が大変だった」(福田理事)。

その後、17年を起点に人海戦術は一巡し、現在は「大量のラベルなし学習データ(生データ)を用いてAIが自ら学ぶ自己教師学習が主流」(同)。自己教師学習を用いて大規模AIモデルを一旦作れば、それを基に用途ごとに追加学習して、カスタマイズしたAIモデルやアプリを効率よく作ることが可能。追加学習の際は「少量のラベル付きデータを用意するだけでよい」(同)。

こうした大規模AIモデルは「Foundation Model(基盤モデル)」と呼ばれる。

実はチャットGPTの裏で動く、オープンAIが開発した大規模言語モデル「GPT3」も基盤モデルの一種だ。予測や分類で用いる学習済みのパラメーター(重み付けなど)数は1750億個に上る。パラメーターは数が大きいほど複雑なタスク処理をこなせる。

「スポーツ選手に例えると、多様な競技をこなせるように高い身体能力を身に付けたのが基盤モデルだ」と波村CTOは説く。身体能力が高ければ、特定の競技でも「少しだけ調整(チューニング)すればよい結果が出せる」というわけだ。

基盤モデルの概念は以前からあったが、実用レベルに引き上げたのは「トランスフォーマー」と呼ぶ、自然言語処理の新しいNNモデルで、米グーグルが17年に論文発表した。

トランスフォーマーの最大の特徴は文中の単語の重要度に重み付けを与え、文中の単語の関連性を捉える「アテンション機構」にある。例えると、英語を翻訳するときに、どこから訳せばよいかがすぐに分かるようなイメージ。長い文章でも高い性能を発揮できる。

また、アテンション機構は並列処理が可能。これにより、逐次的な計算が必須だった自然言語処理が並列化でき、大規模な学習を短時間で行えるようになった。「例えるなら1人の天才が処理していたことを分業できるようになった。これがトランスフォーマーの論文がもたらした技術革新だ」と波村CTOは指摘する。

自然言語処理の並列化の効果は大きく、クラウド上の巨大な計算パワーを使って膨大な計算を分散環境で処理できる。これが「クラウドベンダーのビジネスモデルにもヒットした」(波村CTO)。

米マイクロソフト(MS)はいち早く検索エンジン「Bing(ビング)」にチャットGPTの搭載を決定。米グーグルなどのGAFA(米4大IT企業)も対抗策を相次ぎ打ち出し、AIプラットフォームをめぐるつば競り合いで火花が散る。

基盤モデルに象徴されるAIモデルは加速度的に進化し応用範囲が広がる。AIが普及すれば多くの作業が自動化され、また医療の進歩や教育のあり方などにも影響を与える。AI活用に伴う倫理問題も避けて通れない。AIの進化を社会に役立てるために、世界各国がどう向き合うかが問われている。

日刊工業新聞 2023年03月15日の記事から抜粋

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