デング熱ワクチン海外販売加速、武田薬品が公的な予防接種への導入目指す
武田薬品工業がデング熱ワクチンの販売に向けた動きを加速させている。2022年のインドネシア、欧州連合(EU)に続き、23年3月にはブラジルでも販売の承認を取得。新たな臨床データや承認取得が進んだことにより、当初の30年頃のピーク時売り上げ予想を7億―16億ドルから16億―20億ドルに引き上げた。武田薬品はデング熱の流行地域において、国が定める予防接種プログラムに同ワクチンが入ることを目指しており、接種数を着実に伸ばすことで事業の成長を狙う。(安川結野)
デング熱は蚊が媒介するウイルス性疾患。発生地域は中南米や東南アジアなど125カ国以上におよび、年間3億9000万人が感染するとされる。流行地域においては医療の逼迫(ひっぱく)や入院費といった患者の経済的負担も問題となっている。
デングウイルスには4種類の血清型がある。武田薬品が扱う「QDENGA(キューデンガ)」(4価弱毒生デング熱ワクチン)の特徴はこの4種類全てのデングウイルス血清型により起きるデング熱の予防が期待される点だ。インドネシアとEU、ブラジルでは、デングウイルス感染歴を問わない幅広い適応で承認取得が進み、接種対象者が増加している。武田薬品は今後10年間でキューデンガが安定的に成長すると予想し、ピーク時の売り上げ予想を上方修正した。それに合わせ、年間生産量も5000万回分から1億回分へと増やす計画だ。
対象者への接種機会を高めるため、武田薬品グローバル・ポートフォリオ・ディビジョン・プレジデントのラモナ・セケイラ氏は「最終的な目標は政府の予防接種プログラムに組み込まれること。流行地域でのワクチン接種へのアクセスを段階的に高めていく」と説明する。
まずは自己負担から始めてもらい、企業や自治体、さらに国のプログラムにおいて接種を促進してもらうことで、着実に接種数の拡大につなげていく戦略だ。「公的なプログラムでワクチン接種を進めることにより、医療費などのコスト削減につながることを示していく」(セケイラ氏)とし、経済的効果についても訴求していく考えだ。
デング熱は流行地域の住民だけでなく、旅行者らにとっても問題となる感染症だ。感染の可能性がある人口は40億人以上とも言われる。感染リスクがあるできるだけ多くの人にワクチンを届けることが、感染症流行の予防とワクチンの成長につながる。