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宇部興産が「プリウス」のリチウムイオン二次電池に塗布型絶縁材を供給

化学各社のセパレーター戦略に迫る
宇部興産が「プリウス」のリチウムイオン二次電池に塗布型絶縁材を供給

トヨタ自動車の新型プリウス向けLIB


テスラの大型電池工場のフル生産は20年ごろ


 東レは数十億円を投じ、韓国のLG化学からセパレーター加工設備を買収、車載用LIB事業を強化しているLG化学とのパイプを強化する。16年までにセパレーターの原反(後加工前のフィルム)の生産能力を現状比5割増にするだけに原反の製造・販売から加工領域へ事業を広げて競争力を高める。

 住友化学は17年をめどにセパレーターの生産を韓国で始める。大江工場(愛媛県新居浜市)でも増産し、年産能力を20年に4億平方メートル超と15年比3倍以上に引き上げる。米テスラ・モーターズとパナソニックが共同で建設する大規模電池工場(ネバダ州)の需要に対応する。

 国内セパレーター各社が生産増強に動いたのは18―20年ごろに市場拡大が本格化するLIB搭載車への採用を見込んだ動きだ。テスラは16年半ばまでに大規模電池工場の生産を始める予定。同工場のフル生産は20年ごろを見込んでいる。中国政府によるEV奨励策もあり、矢野経済研究所は20年の車載用LIB世界市場が容量ベースで5万1437メガワット時と15年予測比5・3倍になると予測した。

そのほかLIB部材の投資は?


 だが、車載用LIB部材の本格的な市場拡大にはまだ5年程度の時間がある。なぜこの時期に先行投資と言える増強に動いたのか。車載用LIB部材は高品質が求められるためLIBセルメーカーから認定を受けても実際の採用まで1―2年の時間差が発生する。約1年間の量産テストも求められるため市場立ち上がりに合わせた設備増強では間に合わないからだ。

 実際、LIB部材各社はEVの普及を見込んで11年ごろに相次ぎ生産能力を増強したが想定通りに市場拡大が進まず設備過剰に陥った。矢野経済研究所によるとセパレーター生産設備の14年の稼働率は55・1%。正極材は53・5%、負極材は43・0%、電解液に至っては29・6%にとどまる。

 このため、セパレーター以外のLIB主要部材で生産増強の動きは国内各社からは聞こえてこない。生産能力と実需のギャップは今後、縮まるとみられるが、消費者が欲しいと感じる性能や価格のEVが出なければこのギャップ解消は困難になる。

《セパレーターとは》
 正極材、負極材、電解液とともにLIBの主要4部材の一つで、正極・負極間に位置する多孔質膜。正極・負極間でリチウムイオンを透過させるとともに、正極と負極の接触を遮断しショート(発熱)を防ぐ。
日刊工業新聞2016年2月17日素材面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 中国、韓国メーカーが安さを武器に存在感を高める中、国内化学各社が高付加価値品で差別化するのはLIB部材も同様だ。その代表事例がEVやHVに搭載する大容量LIB向けの高機能セパレーターと言える。  スマホなどに使う小型LIB部材はすでに中韓メーカーに侵食され、価格下落で採算が悪化した。EV市場が拡大すれば、いずれ車載用LIB部材も同じ道をたどることになる。その時に再び差別化するためにもグループ内外の技術資源融合による開発体制の強化が求められそうだ。 (日刊工業新聞社編集局第ニ産業部・水嶋真人)

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