宇部興産が「プリウス」のリチウムイオン二次電池に塗布型絶縁材を供給
化学各社のセパレーター戦略に迫る
宇部興産は16日、連結子会社である宇部マクセル(京都府大山崎町)の高機能塗布型セパレーター(絶縁材)が、トヨタ自動車の新型ハイブリッド車(HV)「プリウス」に搭載したリチウムイオン二次電池(LIB)に採用されたと発表した。電池が高温になった時の挙動安定性、高入出力特性が評価されたという。
宇部マクセルは宇部興産が51%、日立マクセルが49%を出資する共同出資会社。宇部興産のセパレーターに日立マクセルの分散塗布技術を用いてコーティング膜を形成することで、高温耐熱性を強化した塗布型セパレーターを開発している。国内外のHV、電気自動車(EV)など車載用途に多数の採用実績を持つ。
国内化学各社が、リチウムイオン二次電池(LIB)の主要4部材の一つであるセパレーター(絶縁材)の生産能力を相次ぎ増やしている。世界各国の環境規制強化で電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などLIB搭載車の市場拡大が2020年ごろに進んだ際の需要増を取り込む狙いだ。先行投資の意味合いがあり、想定通りに車載用LIBの需要が増えるか注視する必要がある。(水嶋真人)
セパレーター世界シェア首位の旭化成は16年春に年産能力を5億5000万平方メートルと従来比で倍増する。8月に買収が完了した米国のセパレーター大手ポリポア・インターナショナル(ノースカロライナ州)が持つ年産能力2億平方メートルが加わるほか、日向工場(宮崎県日向市)に約50億円を投じて年産能力6000万平方メートルの生産ラインを新設。同工場と守山工場(滋賀県守山市)の生産性向上などで、さらに年産能力3500万平方メートルを上乗せする。
旭化成の小堀秀毅専務執行役員は「当社の次の成長エンジンの一つがセパレーターだ」と意気込みを示す。事実、ポリポアの買収は同社にとって最大となる約2600億円を費やした。これにより量産車用LIB向けに採用が進むとされる乾式セパレーターという武器を手に入れた。
旭化成は他社に先駆けて90年にLIB用セパレーターに参入。スマートフォンなど民生用小型LIBに使う湿式セパレーターを中心に世界トップシェアを築いてきた。だが、小型LIB向けは安さを武器とする中国メーカーに浸食された。
調査会社の矢野経済研究所がまとめた14年のセパレーター国別シェアは日本が前年比3・9ポイント減の34・9%と、中国(37・6%)に抜かれた。セパレーターの価格下落も進み採算が悪化している。
このため、旭化成など国内各社は自社の高い技術が生かせる車載用大型LIB向けに活路を見いだそうとしている。ただ、添加剤で孔をあける湿式セパレーターは高品質だが高コストなため、高級車向けが主流。ボリュームゾーンの量産車向けではフィルムを引き延ばして穴をあける低コストの乾式セパレーターの採用が有力だ。
事実、ポリポアは14年11月、パナソニックと次世代の車載用LIB向けセパレーターの共同開発で合意した。長期的な提携も視野に入れている。旭化成が米国のEVメーカー向けに需要増を十分取り込む体制を整えたと言えそうだ。
宇部興産もセパレーターの年産能力を17年に現状比4割増の2億平方メートルに増やす。16年7月に宇部ケミカル工場(山口県宇部市)の既存設備を再構築して生産能力を増やし、17年6月に堺工場(堺市西区)で新規設備を設置する。20年にも現状比倍増の3億平方メートルへ増やす計画だ。
これを受け、日立マクセルもセパレーターにコーティング膜を形成することで高温耐熱性を高めた塗布型セパレーターの加工能力を16年夏に倍増する。日立マクセルは11年に宇部興産と塗布型セパレーターを供給する会社を設立。日立マクセルの磁気テープ生産技術を転用した塗布技術で競合他社と差別化する戦略だ。
宇部興産はLIBメーカーとの連携強化も進める。その拠点となるのが約30億円を投じて16年7月に完成させるLIB部材研究拠点「大阪研究開発センター」(堺市西区)だ。
国内各拠点に分散しているセパレーター研究開発機能を集約。研究開発スピードを速めるほか、関西に拠点を置くLIBメーカーとの連携強化につなげる。
<次のページは、どうなるテスラの大型電池工場>
宇部マクセルは宇部興産が51%、日立マクセルが49%を出資する共同出資会社。宇部興産のセパレーターに日立マクセルの分散塗布技術を用いてコーティング膜を形成することで、高温耐熱性を強化した塗布型セパレーターを開発している。国内外のHV、電気自動車(EV)など車載用途に多数の採用実績を持つ。
2020年見据え先行投資
日刊工業新聞2015年10月20日付「深層断面」
国内化学各社が、リチウムイオン二次電池(LIB)の主要4部材の一つであるセパレーター(絶縁材)の生産能力を相次ぎ増やしている。世界各国の環境規制強化で電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などLIB搭載車の市場拡大が2020年ごろに進んだ際の需要増を取り込む狙いだ。先行投資の意味合いがあり、想定通りに車載用LIBの需要が増えるか注視する必要がある。(水嶋真人)
小型向け中国台頭、大型向けに活路
セパレーター世界シェア首位の旭化成は16年春に年産能力を5億5000万平方メートルと従来比で倍増する。8月に買収が完了した米国のセパレーター大手ポリポア・インターナショナル(ノースカロライナ州)が持つ年産能力2億平方メートルが加わるほか、日向工場(宮崎県日向市)に約50億円を投じて年産能力6000万平方メートルの生産ラインを新設。同工場と守山工場(滋賀県守山市)の生産性向上などで、さらに年産能力3500万平方メートルを上乗せする。
旭化成の小堀秀毅専務執行役員は「当社の次の成長エンジンの一つがセパレーターだ」と意気込みを示す。事実、ポリポアの買収は同社にとって最大となる約2600億円を費やした。これにより量産車用LIB向けに採用が進むとされる乾式セパレーターという武器を手に入れた。
旭化成は他社に先駆けて90年にLIB用セパレーターに参入。スマートフォンなど民生用小型LIBに使う湿式セパレーターを中心に世界トップシェアを築いてきた。だが、小型LIB向けは安さを武器とする中国メーカーに浸食された。
調査会社の矢野経済研究所がまとめた14年のセパレーター国別シェアは日本が前年比3・9ポイント減の34・9%と、中国(37・6%)に抜かれた。セパレーターの価格下落も進み採算が悪化している。
このため、旭化成など国内各社は自社の高い技術が生かせる車載用大型LIB向けに活路を見いだそうとしている。ただ、添加剤で孔をあける湿式セパレーターは高品質だが高コストなため、高級車向けが主流。ボリュームゾーンの量産車向けではフィルムを引き延ばして穴をあける低コストの乾式セパレーターの採用が有力だ。
電池メーカーと連係、研究開発急ぐ
事実、ポリポアは14年11月、パナソニックと次世代の車載用LIB向けセパレーターの共同開発で合意した。長期的な提携も視野に入れている。旭化成が米国のEVメーカー向けに需要増を十分取り込む体制を整えたと言えそうだ。
宇部興産もセパレーターの年産能力を17年に現状比4割増の2億平方メートルに増やす。16年7月に宇部ケミカル工場(山口県宇部市)の既存設備を再構築して生産能力を増やし、17年6月に堺工場(堺市西区)で新規設備を設置する。20年にも現状比倍増の3億平方メートルへ増やす計画だ。
これを受け、日立マクセルもセパレーターにコーティング膜を形成することで高温耐熱性を高めた塗布型セパレーターの加工能力を16年夏に倍増する。日立マクセルは11年に宇部興産と塗布型セパレーターを供給する会社を設立。日立マクセルの磁気テープ生産技術を転用した塗布技術で競合他社と差別化する戦略だ。
宇部興産はLIBメーカーとの連携強化も進める。その拠点となるのが約30億円を投じて16年7月に完成させるLIB部材研究拠点「大阪研究開発センター」(堺市西区)だ。
国内各拠点に分散しているセパレーター研究開発機能を集約。研究開発スピードを速めるほか、関西に拠点を置くLIBメーカーとの連携強化につなげる。
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日刊工業新聞2016年2月17日素材面