停滞30年続くパナソニック、新経営体制に勝算はあるのか
パナソニックホールディングス(HD)が4月1日、持ち株会社制での新経営体制を始動させた。一つの間接部門会社と家電、電池などに分かれた7事業会社に権限を移譲し、「スピードとスケールにおいて競合に負けない競争力を獲得する」(楠見雄規社長)狙いだ。楠見社長は4月だけでも4度、メディアの前で“目指す姿”をアピールした。だが30年続く停滞状態からの脱却は容易ではない。勝算はあるのか。(大阪・大原佑美子)
“進化続ける”街づくり
「大切なことは、街づくりの後も共に創る共創を継続し、持続的に街が進化することで地域の価値を高めることだ」―。4月8日、同社遊休地を活用し行政やインフラ、通信、警備事業者などと進めてきた多世代居住型健康スマートタウン「SuitaSST」(大阪府吹田市)の街開き発表会で楠見社長は強調した。
街全体の消費電力を実質的に再生可能エネルギー100%でまかない、住民のヘルスデータや街に設置したカメラデータの収集・解析を通じてあらゆる世代が安心し永続的に暮らせる街づくりを目指す。
4月15日には三日月大造滋賀県知事や間島寬岩谷産業社長などを招き開いた、水素を用いた工場の「RE100」実証施設の開所式で「社会の二酸化炭素(CO2)排出に対するより大きな削減貢献インパクトを目指す」とあいさつ。パナソニックHDは2030年に全事業会社のCO2排出実質ゼロ、50年に向けて既存・新規事業による社会に向けての排出削減貢献を合わせ、世界のCO2総排出量の約1%に当たる3億トン以上を削減することを掲げている。
楠見社長はこの間、ことあるごとに「持続性」と「環境」軸の方針を口にした。同社の22年3月期の連結売上高予想は7兆3000億円で、92年3月期に初めて7兆円を突破した30年前と同規模の水準にとどまる。
「これまで3年後の営業利益率が中期計画の中心となり、その達成が目的化していた。変化の速い時代だからこそ2―3年でなく、30年の社会変革を考えた長期視点の経営に変える」(楠見社長)とし、グループ全体での売上高目標はあえて設定せず、目指す姿からバックキャストする戦略での成長をもくろむ。意識変革促す人事制度
パナソニックHDは24年度までの3年累積キャッシュフローを2兆円、累積営業利益1兆5000億円を中期経営指標に定めた。各事業会社で稼いだキャッシュを元手に自ら投資し成長する「自主責任経営」で競争力を高め、成長路線への回帰を目指す。
一方、車載電池やサプライチェーンソフトウエア、空調については各領域で生み出すキャッシュだけでは3年で必要な資源を確保できない可能性が高く、別途4000億円の投資枠を設置。水素エネルギーや、現実世界とサイバー空間を結びつけ、社会課題の解決につなげるサイバー・フィジカル・システム(CPS)などの基盤技術への投資にも別途2000億円の枠を設けた。
経営基本方針にあるダイバーシティー&インクルージョンの概念にエクイティ(公平性)を加えた人事戦略も今回改めて公表した。また社員の希望により週に3日間休める「選択型週休3日制」を一部の事業会社約5000人を対象に試験導入する方針を固めるなど制度や仕組みもテコ入れし、意識変革を促す戦略も透ける。
創業104年の“名門”の大改革。楠見社長は「当社には幸い、創業者が残した経営のこつが残る。それがおろそかになっていたのがこの何十年」と振り返る。6月には投資家向け説明会でより詳細な事業会社の戦略を公表する見込みで、成長をけん引する領域も明確になりそうだ。
現状は環境配慮や長期視点など経営の考え方は打ち出すものの、明確なビジョンが見えづらい側面もある。「(複合企業体の価値が低く評価される)コングロマリット・ディスカウントではなく、各事業がもう一度競争力を取り戻した状態、これに近づいていきたい」と楠見社長は強調。持ち株会社制への移行により成長路線を描けるのか。改革の進化と深化が問われている。