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パナソニックの本社役員に抜擢されたインド人

マニッシュ・シャルマ氏に聞く。「韓国勢と戦える体制になった」
パナソニックのインド事業が拡大基調にある。競合がひしめく市場で勝ち抜くため、委託生産などの決裁権を現地子会社へ大幅に委譲し、独自の品質保証基準などを設けたことが奏功した。資産を抱え込まないアセットライト戦略と自己完結型経営を推進し、市場の変化を捉えた新製品を投入し展開している。インドの2018年度売上高目標は15年度比2倍超の約3000億円を狙う。パナソニックインドのマニッシュ・シャルマ社長(パナソニック役員)に戦略を聞いた。

 ―スマートフォンや家電の独自展開など、現地主導の製品投入が成果を上げています。
 「開発や調達権限の委譲で、インド人好みの製品の立ち上げが加速しており、韓国勢と戦える体制になった。意思決定の迅速化で、市場成長より速い速度で事業が伸びている。ODM(相手先ブランドでの設計・生産)活用などのアセットライト戦略により、経営リソースをコンシューマービジネスに割かなくて良いのも利点。リソースは好調なスマホに加え、持続的成長に向けてエネルギーや安全・監視システム事業に割いている」

 ―エネルギー事業の今後の取り組みは。
 「銀行の停電対策で400台の現金自動預払機(ATM)に蓄電池を供給したが、さらに広がる見込みだ。ATMの稼働監視などを含むビジネスモデルで好感触を得ている。蓄電池は病院やホテル、基地局向けなどの中・小規模用途で需要が多く、応用開発にリソースを割いている。太陽電池は屋上設置タイプを展開中。電力不足はインド全体の課題だ。大規模な太陽電池施設や蓄電施設向けも念頭に、政府の政策を注視している」

 ―インドのモディ首相はスマートシティー(次世代環境都市、SC)を100カ所作る構想を掲げています。
 「インドのSCは環境配慮に加え、道路や病院などのインフラ整備、電力やIT環境の安定化、治安向上の三つの観点を含む。当社はエネルギーやセキュリティー分野で、政府と連携して進めている案件がある。ここ1年だけでもSC計画向けで多数の監視カメラを据え付けた。州警察の保安・監視計画向けに関連機器も納入した」

 ―家電や自動車向け事業などの拡大策は。
 「小規模だが、数カ月以内にカーナビゲーションシステムや車載オーディオシステムの組み立てラインを既存の家電生産拠点内に新設する。インドには各自動車メーカーのR&D拠点があり、当社もインドでR&D能力を高める投資もしている。インド人は高品質な家電を求めており、日本ブランドの信頼は高い。ニーズに合った製品開発を進め、多様な製品をインドで生産し、提供していく」

【記者の目・グループ全体の先導役】
 インドは16年11月の高額紙幣廃止が経済成長に水を差したが、今後も7%前後の成長率が続いていく見通し。同社のインド事業も権限委譲によるスピード経営が同国の成長速度とリンクして急成長しており、他の海外事業の見本にもなっている。競合から引き抜いたシャルマ社長を16年にパナソニック役員へ抜てきしたことにより、優秀な人材がさらに集まってきている。グループ全体の先導役として期待される。
(聞き手=大阪・松中康雄)

日刊工業新聞2017年2月9日



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スマホ事業、3年で7倍目指す


パナソニックのインド子会社が手がけるスマホ

 パナソニックはインドの子会社が独自に展開するスマートフォン事業について、2018年度売上高目標を15年度比約7倍の約600億ルピー(約1000億円)に設定した。人口が世界2位のインドはスマホ市場の規模も1兆2000億円で世界2位だが、スマホ普及率は2割程度にとどまる。今後フィーチャーフォンからの移行が本格化し、さらなる成長が見込める。新機種の積極投入や、現地主導によるソフトウエアの開発、周辺国への展開の加速により事業を拡大する。

 パナソニックは日本と欧州でスマホ事業を展開していたが、不振だったことから13年に撤退。一方、インドでは、同じ年に南アジア事業の権限を広範に委譲した子会社「パナソニックインド」(ハリヤナ州)が主導となってスマホ事業に参入した。

 インドのスマホ事業は成長著しく15年度に売上高150億円を計上し、16年度は260億円前後を見込む。17年度目標は450億円で、18年度はさらに倍増する見通し。

 移り変わりの速い市場環境に対応するため、およそ1カ月ごとに新製品を投入する。現状は36機種。

 ソフト開発では現地の工科大学の学生から人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、ユーザーインターフェース(UI)、アプリケーション(応用ソフト)、ハードウエアの5分野で、革新的なアイデアを公募した。応募228件から優秀案件をえりすぐり、協力会社と実用化する。

 またアジア、中東、アフリカでの輸出先も増やす。同社にとってインドは重要戦略地域。現地子会社への委託生産品の調達権限委譲など、現地完結型で迅速な経営を進めている。

 ODM(相手先ブランドによる設計生産)活用でテレビ事業を立て直し、スマホ事業を急成長させるなど、資産を抱え込まないアセットライト戦略が特徴。同戦略の推進で、今後伸ばすBツーB(企業間)事業にも経営リソースを振り向けている。

日刊工業新聞2017年2月3日



カレーの「シミ」が落とせる洗濯機


カレーやインド独特のヘアオイルなど同国特有の汚れを落とす

 パナソニックは注力市場のインドで、衣類に付着したカレー料理のシミを落とせる洗浄力の高い縦型洗濯機を開発し発売した。カレーやインド独特のヘアオイルなど、同国特有の衣類汚れを落とすプログラム「ステインマスター」を現地主導で開発し搭載した。同国で洗濯機市場を占有する韓国勢に対抗する。

 新製品の投入により、2018年度にインドでの洗濯機販売台数を16年度見込み比50%増の年33万台に高める。これにより同国での洗濯機事業の18年度売上高を同65%増の48億ルピー(約80億円)に引き上げる。

 新製品は14機種。価格は2万190ルピー(約3万4000円)から2万8490ルピー(約4万8000円)。従来品より約1割高いが、インドの洗濯機普及率は約10%で、拡大が期待できる。同社市場シェアは約3%で、韓国系2社に対して劣勢だが「直近の事業成長率は競合他社より高い」(パナソニックインド)と大きな伸びを見込む。

 新製品は現地の工場や販売会社のスタッフらと約2年間、現地の生活を研究し、不満や要望からニーズを探った。北部や南部など各地で異なるカレーのシミに対応したカレーコースを含む新プログラムは、上位7機種に搭載した。最適な水流、こすり洗い、温度、浸し時間でシミを除去する。普段使いの標準コースも独自の泡洗浄方式を採用したほか、水流の工夫で洗浄力を強化した。洗濯物が取り出しやすい筐(きょう)体形状と、扱いやすい操作パネルで利便性も高めた。

 一方、同国では洗濯機以外の家電事業も注力しており、このほど空気清浄機能付きエアコンの新製品も投入した。新製品効果などで同国でのエアコン販売台数は18年度に16年度見込み比11%増の年40万台、売上高は約30%増の133億ルピー(約223億円)を狙う。

日刊工業新聞2017年1月26日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
シャルマ氏はサムスンで実績を上げただけに韓国勢の手の内を十分に分かるはず。 一方で日本企業における外国人役員のキャリアはここからが難しい。中途半端な「責任と権限」は嫌がる。インド事業だけの担当ならパフォーマンスを上げやすいし、その分、報酬にもプラスになる。これがアジア全体やほかの事業も見ろ、ということになると拒否する人もいるだろう。シャルマ氏自身が自分のキャリア形成をどう考えているかは分からないが、インドにおける外資の現地法人のトップというのであれば、それ以上のキャリアステップはあまりない。 日本企業において外国人役員を昇格させていくのは簡単ではない。

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