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「石橋をたたいても渡れない日本メーカーは負けてしまう」…独メガサプライヤー日本法人社長の転機

「一人ひとりの社員の父にならないといけない」。独メガサプライヤーZFの日本法人、ゼット・エフ・ジャパン(横浜市中区)の多田直純社長は、社員約500人を束ねるトップの立場をこう表現する。「社員の先には家族もいる。後継者も作らないといけない」と職責の重さをかみしめる。

大学卒業後、複数の外資系自動車部品メーカーでキャリアを積み重ねてきた。「転機になった」と振り返るのが、中国の大手車載電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)日本法人トップとしての経験だ。中国・福建省にあるCATL本社を訪れた際、出会った若者らの熱気に「石橋をたたいても渡れない日本メーカーは負けてしまう」との危機感を抱いたという。

「日本の自動車メーカーの電動化を進めたい」との思いを強くし、日本法人の設立に奔走。2018年の開所式には、日系完成車メーカーやメガサプライヤーの幹部が顔をそろえた。

19年にはゼット・エフ・ジャパン社長に就いた。当時、独ZFの日本法人はゼット・エフ・ジャパン以外に2社あった。多田社長が取り組んだのが、これらの合併だ。「それぞれがグローバル企業の一部門という意識を持っており、カルチャーが混ざらなかった」。そこでミーティングを開いて社員に売上高の長期目標を示し、「ワンチーム、ワンターゲット」と呼びかけた。

22年1月に3法人が合併し、新生「ゼット・エフ・ジャパン」が始動。コロナ禍による遅れはあったが「横のつながりを作ることができた。コロナ禍で結束は強まっている」と話す。

自動車業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)などが加速しており、同社自体も合併に加え、外部からの採用を積極化するなど変化が激しい状況にある。「後部座席や助手席に座っている方が楽だが、自分で運転することの面白さがある。コンフォートゾーン(快適な場所)から出て、価値を広げないといけない」と説く。原材料高騰などで足元の外部環境は厳しさを増しているが、「お客さまと密にコミュニケーションを取るようにしている。乗り越えた時にはより強い関係を築けるのではないか」と前向きに捉える。

自動車部品だけでなく風力発電など、幅広い分野に商機はあるとにらむ。「人のふんどしで相撲を取る。独ZFを使い倒すとともに、日本国内に友達を作っていく」とビジネス創出に意欲を見せる。(江上佑美子)

【略歴】ただ・なおすみ 86年(昭61)大阪工業大卒、同年ボルグ・ワーナー・オートモーティブ入社。ボッシュ、テネコジャパンを経て、17年CATLジャパンリージョナル・プレジデント兼取締役。19年ゼット・エフ・ジャパン社長。

日刊工業新聞 2023年01月17日

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