ニュースイッチ

自動車塗装を大幅省エネ化、ダイハツの工場長が「大丈夫なのかと思った」新技術の仕組み

自動車塗装を大幅省エネ化、ダイハツの工場長が「大丈夫なのかと思った」新技術の仕組み

未塗着塗料を気流で段ボール製フィルターにより捕集し、残りも市販フィルターで回収する(塗装ブース)

ダイハツ工業は塗装工程を大幅に省エネルギー化する新技術を国内外の工場に導入する。京都工場(京都府大山崎町)で採用したのを皮切りに、インドネシアや他の国内工場にも広げる。同技術は車両に付着しなかった未塗着塗料を水なしで段ボール製フィルターにより捕集し、エネルギー消費を従来比44%減らせる。小規模で経年化し生産性向上が難しい京都工場ならではの知恵から新技術は生まれた。塗装の低炭素化で先駆け、モノづくりの競争力を強める。(大阪・田井茂)

新技術は車両に塗料を吹き付ける塗装ブースにおいて、未塗着塗料を気流で段ボール製フィルターにより90%捕集し、残りを市販フィルターで100%回収する。従来技術と異なり、未塗着塗料を水で回収せずに済む。温湿度の空調や水循環に多くのエネルギーを使う従来技術に比べ、塗装ブースを44%省エネ化した。

ダイハツはこの塗装ブースを、インドネシアの子会社アストラ・ダイハツ・モーターがカラワン車両工場(西ジャワ州)隣接地で2024年12月に新設する第2ラインへ導入する。新設ラインでないと導入は難しいが、既設の工場に後付けできる改良機も開発する。滋賀工場(滋賀県竜王町)や子会社ダイハツ九州(大分県中津市)の大分工場(同)にも導入を検討する。

「新しい塗装をやると聞いて『大丈夫なのか』と思った。役員の一部からは万一に備え、従来の塗装もできるようにしておけと言われた」。京都工場の福嶋洋工場長は塗装の大胆な刷新に臨んだ際の心境をこう明かす。トヨタ自動車グループとして35年のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成を課せられたダイハツにとって、エネルギーを大量消費する従来の塗装は大きな妨げだった。

京都工場はダイハツの組立工場の中でも面積が小さい。塗装工程は稼働から約50年と老朽化もしていた。04年にダイハツ車体(現ダイハツ九州)が前橋市から新鋭の大分工場に移転後は、存廃の臆測すら流れた。しかし新たな建屋や設備を徹底的にコンパクト化し、生産性や省エネ効率を改善する改修工事に18年に着手。塗装の完全自動化も含め22年10月に完了した。省エネのカギを握る塗装の刷新は大きな焦点だった。

段ボール製フィルターの開発を担った車両生技部車両ものづくり開発室の畑中孝文主任は「試作ブースで塗料を吹き付け、最適な形状を予測しながら捕集を泥臭く検証した」と振り返る。開発を急ぐため流体解析も検討したが、塗料別に特性が異なり、時間がかかることが分かった。

限られた面積や経年化を克服し生産性向上と低炭素化に挑む京都工場

粗い目、中間の目、細かい目で未塗着塗料を捕集し、塗料別に組み合わせも変えて最適化する知恵に2年半でたどり着いた。改修完了に先立つ21年5月には、新たな塗装ブースを稼働。未塗着塗料は水で回収するよりも容易に処理できる。炭酸カルシウムでも捕集可能だが、装置が大型化するため見送った。

段ボールなどのフィルターで未塗着塗料を回収する技術は欧州の自動車工場で始まった。国内でも親会社のトヨタなどが先行した。ただ、工場全体で試みたのはダイハツが初めて。段ボールは再生紙でコストを抑えられる。交換期間は1カ月以上と長寿命も特徴だ。塗装ブースにはトヨタの超高塗着塗装機を導入し、グループの技術力も大きく寄与した。

ダイハツが得意な軽自動車と小型車は利幅が薄い。モノづくりを地道に改善し、利益を積み上げるほかない。福嶋工場長は「塗装は従来のやり方ではだめなのでチャレンジした。工場改修も従業員の意見をかなり採り入れた」と、挑戦心や現場の知恵を強調する。京都工場から新たなカーボンニュートラルを発信し、他工場にも広めていく構えだ。

日刊工業新聞2023年2月20日

編集部のおすすめ