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環境に新しい答えを出し、生活を彩る。社会変化を映すパッケージの潮流

日本パッケージデザイン大賞2023 贈賞式
環境に新しい答えを出し、生活を彩る。社会変化を映すパッケージの潮流

大賞を受賞したBAUMのパッケージ群

日本パッケージデザイン協会は2日、「日本パッケージデザイン大賞2023」の贈賞式を開いた。同賞は意匠、材料、設計などの観点から専門家による審査を通じパッケージにおける創造性を競う公募制度。今回の応募総数は1060点。大賞は資生堂クリエイティブ(東京都港区)が手がけた資生堂の「BAUM(バウム)」が受賞した。
 式では同協会の小川亮理事長が「パッケージデザインは社会の動きや人々の思想を早いサイクルで色濃く反映する。今回の応募作品は環境との関わりに新しい答えを出し、人々の生活を豊かに彩るデザインに挑戦したものが多く集まった」とあいさつした。

大賞のBAUMは2020年5月に資生堂が発売したスキンケアブランドだ。「樹木との共生」をコンセプトにした世界観のもと、パッケージではボトルの部品や一部の容器のフタに木材を使用。木製家具の端材を活用したアップサイクルの推進、バイオPETやリサイクルガラスなど環境負荷を考慮した素材を厳選している点も特徴だ。審査会では製品の審美性に加え、店舗での植物の育成や植樹活動などブランドの取り組み全体における社会性の高さが評価されたという。
 BAUMのアートディレクションを担当した資生堂クリエイティブの山田みどり氏は式典のトークセッションで「ブランドコンセプトの開発から事業に参画する過程で木を使ったパッケージの思想が生まれた。将来、このプロジェクトで植樹した木で家具を作り、その端材をBAUMに使用する循環が本当に体験できるようなブランドに育てていきたい」と笑顔を見せた。

トークショーの様子

また同作品のプロダクトデザインに携わったkumano(長野県北佐久郡)の熊野亘氏は「量産条件が厳しい素材を扱ったり加工の難易度が高い材料を組み合わせたりする過程の中で、専門家同士が知恵を出し合ってモノづくりに向き合えたことが印象深い。今の時代に合ったデザイン開発の体験だった」と振り返った。

消費者の環境に対する意識が強まる中では、製品の素材や生産過程を日常生活における購買の判断軸とする動きが広がっている。企業活動においてはSDGsへの取り組みやCO2排出量の測定など環境保全への取り組みも注目される。こうした状況下、パッケージデザインの領域では、従来の開発の仕組みを見直したり、新たな包装資材の開発に挑戦したりする動きが活発だ。
 ホームケア&電化製品・雑貨部門金賞を受賞したソニーの「オリジナルブレンドマテリアル:『WF-1000XM4』パッケージ」は市場回収した再生紙、産地を特定した竹やさとうきびなどを組み合わせた独自原料による資材を使用しイヤホンのパッケージを制作。同作品に特別審査員賞を贈った特別審査員の左合ひとみ氏は「緩衝材を含む多くの部品を素材から作り上げただけでなく(パッケージ材料の)生産工程も輸送距離を短くするなど環境との関わりを意識し丁寧に作られている。社会や環境にとってよいことを追求する過程でデザインの美意識を捨てない姿勢に心を掴まれた」と講評した。

特別審査員賞「オリジナルブレンドマテリアル:『WF-1000XM4』パッケージ」

パッケージデザインの開発は多くの場合、発売日や設計仕様などが設定された後に始まる。一方、近年では企画の立ち上げ段階からデザイナーが参画し、幅広い領域の制作を担う一環としてパッケージを手掛ける事例が広がっている。消費者の価値観が複雑になる中では、製品のビジョンやブランドの目的を体現するデザインの策定が重要と捉える企業が増えているからだ。職種や業態を越えて多様な開発過程を共有できる環境は、デザイナーにとっても製品の哲学や企業の思想を深く捉えられる利点がある。大賞のBAUMがエントリーしたVI・BI部門は商品パッケージを中心に展開した包装紙やショッパーなどの作品群が対象。構成要素を複数のアイテムに展開し、製品を手に取ってから購入するまでの体験を彩る仕組みは、いわばブランドや事業の「パッケージ」だ。単一の製品だけでなく、そのルーツとなる企業にも関心を持つ消費者が増えつつある中、パッケージデザインが担う役割は今後一層広がりそうだ。

今回の入賞・入選作品は23年5月刊行予定の「日本パッケージデザイン年鑑2023」に掲載される。23年3月からは名古屋、大阪、富山、東京で一部作品の展示を順次行う予定だ。

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濱中望実
濱中望実 Hamanaka Nozomi デジタルメディア局コンテンツサービス部
小川理事長のコメントにもあるように、流行や社会の様子が色濃く反映されるパッケージのデザイン。ロングセラー商品やブームになった製品をふりかえるとその時々のトレンドを感じます。今後はグラフィックだけでなく、素材や設計思想にも時代の変化がわかりやすく現れていくのかもしれません。

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