筑波大に核融合研究の新装置。主要部品の開発に挑む
筑波大学プラズマ研究センターは夢のエネルギー「核融合発電」の実現に貢献する世界最大のタンデムミラー型プラズマ閉じ込め装置「GAMMA 10/PDX」(ガンマ10)を運用する。核融合反応に不可欠な超高温のプラズマの持続方法などを検証する装置だ。核融合発電を実証する原型炉は経済性の観点からトカマク型という、ドーナツ状にプラズマを生成する装置の採用が有力視されているが、ガンマ10が採用し、強い磁場の対によってプラズマを閉じ込める「ミラー型」は構造が簡単なため、各国で研究に用いられてきた。主要部品の一つ「ダイバータ」開発への応用も期待される。同研究センターはダイバータ開発に向けて、このほど新装置の運転を始めた。
政府は核融合の実用化を見据え、今春にも戦略を策定する。原型炉に向けた研究が加速する中で、同研究センターが担う役割を取材した。
核融合発電
重水素と三重水素の原子核をプラズマでぶつけて核融合反応を起こし、生じた熱を使い発電する。発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代エネルギーと期待される。1億度Cのプラズマを維持し続け、持続的に核融合反応を起こす。ウラン235の連続反応でエネルギーを生み出す原子力発電と異なり、核融合発電はプラズマを維持できなければ、反応が止まるため安全性が高いとされる。
ミラー型とは?
ミラー型はコイルを二つ並べ、閉じ込め磁場を作る単純な構造のため、核融合研究では古くから利用されてきた。ただ、端部からプラズマが損失する点とプラズマが不安定になる点が課題だ。これを解消したタンデムミラー型はコイル形状を工夫してプラズマを安定させ、両端の電位を高くし損失を少なくする。鏡のように端部の電位の壁によって、損失を中央に跳ね返し、プラズマの閉じ込め性能を高める。
ただプラズマ損失による経済性の課題は大きく、原型炉にはトカマク型が採用される見込みだ。そこでミラー型は端部からプラズマが損失する特性を生かし、ダイバータという部品の研究開発に役立てる。
ダイバータ開発に生かす
ダイバータは核融合反応によって生じ、反応の持続を妨げてしまうヘリウムを選択的に排出する部品だ。実用化が有力視される核融合反応では重水素と三重水素の原子核を融合し、中性子とヘリウムが生じる。ヘリウムは核融合炉内に残るとプラズマを冷やす。そこでダイバータによりヘリウムを排出する。
ダイバータは漏れ出したプラズマや粒子により、1平方メートル当たり数十メガワットの熱負荷にさらされる。核融合発電の定常運転にはダイバータへの熱負荷を1平方メートル当たり10メガワットまで減らす必要がある。そこで中性ガスを使い、ダイバータの手前でプラズマを消滅させる「非接触プラズマ」を形成する。
ミラー型で生じる損失プラズマは非接触プラズマを模擬できる。このため同研究センターはミラー型装置を使い、ダイバータの性能向上や検証を行う。
坂本瑞樹センター長は「高周波装置と(マイクロ波を使ってプラズマを加熱する装置の)ジャイロトロンを使って、イオンと電子の温度などを制御することでダイバータ環境を模擬できる」と話す。
またトカマク型の代表的な装置、量子科学技術研究開発機構のJT60―SAのプラズマ体積は133立方メートル。対して、ガンマ10のプラズマ体積は約2立方メートルと小さい。その上で「トカマク型は装置が大きく、ダイバータに近い領域のプラズマを細やかに制御するのは難しい。ミラー型は装置の大きさと形状からも制御がしやすい。トカマク型の補完研究としての意味は大きい」と強調する。原型炉のプラズマ密度は高く、現在のダイバータの除熱性能では対応が難しい。このギャップを埋めるため、ミラー型でのダイバータ模擬実験が重要になる。
同研究センターはこの目的の達成に向けて、このほど新装置「Pilot GAMMA PDX-SC」の運転を始めた。常電導コイルを使う従来装置ガンマ10と比較し、高密度の定常プラズマを生成できる。より原型炉に近い環境を再現し、ダイバータの性能向上の研究に特化した装置だ。「プラズマ密度が高い中でいかに除熱するか。そういったパラメータを揃え、今後のシミュレーションに生かす」(坂本センター長)という。
「研究にも多様性が必要」
原型炉開発に向けて同センターにはもう一つ重要な役割がある。人材育成だ。政府の核融合戦略を議論する有識者会議でも、核融合の専門人材の必要性が強調された。坂本センター長は「原型炉ではトカマク型が採用される見込みだが、核融合プラズマを制御し運転する本質はどの炉系でも変わらない」とし、「生物にも多様性が必要なように研究にも多様性が必要だ」と話す。JT60―SAや核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)のような大型装置だけでなく、大学が小型の核融合実験装置を持つ日本は人材を育成する土壌があると言える。坂本センター長は言う。「皆が同じ研究領域である必要はない。小さくても自分たちで装置を持ち実験する。こうした幅広い土壌こそ人材育成には必要ではないか」。