ロシア向け輸出急増で仕入れ競争激化か、「中古車市場」の現在地
中古車市場に正常化の兆しが見え始めている。新車販売は2022年度下期から軽自動車を中心に回復傾向にあり、23年は中古車の流通台数も増加、長期に渡る品薄や価格の高騰が緩和される公算が大きい。一方、新車生産の撤退が相次いだロシアへの中古車輸出が前年を超える水準で急増しており、国内向けと輸出向けの業者間での仕入れ競争激化が懸念されている。中古車市場の現状を追った。(増田晴香)
新車販売回復 玉不足緩和へ
日本自動車販売協会連合会(自販連)がまとめた22年11月の中古車登録台数は、前年同月比4・3%減の27万6975台と18カ月連続で前年水準を下回っている。22年の中古車市場は、半導体や部品不足を背景とした自動車メーカー各社の減産による新車の供給不足で下取りが減り、品薄が慢性化した。
中古車オークションでは“玉不足”で業者間の仕入れ競争が激化し、競売の成約単価も上昇傾向が続いていた。特に22年は、高年式・低走行の中古車が新車価格より高い値段で取引されるケースも見受けられた。
中古車競売大手のユー・エス・エス(USS)によると、11月の成約車両単価は同12・9%増の106万円と30カ月連続のプラスで着地。また6カ月連続で100万円超えとなった。新車の納車遅れに加え、直近では円安による輸出向け中古車の単価上昇も要因とみられる。
23年は新車の販売台数が徐々に回復することで中古車市場でも下取り車が増え、玉不足や価格高騰の解消に向かいそうだ。新車販売台数は、軽自動車を中心に新型コロナウイルス感染拡大などで低水準だった21年からの回復が鮮明で、22年9月からプラスに転じている。
USSの安藤之弘会長兼最高経営責任者(CEO)は「新車は車種によって納期が1―2年、中には受注停止のものがある状況。だが今後新車販売がさらに改善していけばオークション業界への出品も増える」とみる。
ただ中国のゼロコロナ政策により再度、部品サプライチェーン(供給網)の混乱が生じるなど不安要素も残る。オークネットの大畑智執行役員は「中古車が新車より高いといわれていた22年9―10月と比べて、直近は(供給不足や価格高騰が)若干落ち着いてきている」としつつ、今後の見通しについては「半導体不足は続きそう。以前の水準まで戻るのには時間がかかるのでは」との認識を示す。
輸出業者高値買い
中古車輸出は円安やロシアでの需要増が追い風となり、伸びている。輸出先の1位であるロシア向けは、22年2月のウクライナ侵攻後に経済制裁やルーブル安、運搬船不足などの影響で輸出が停滞した。ただトヨタ自動車や日産自動車などが相次いでロシアでの新車生産から撤退を決め、工場の稼働を停止。経済制裁で欧州や日本からの新車輸入が停止したこともあり、新車不足を中古車で補う動きが出ている。
日本中古車輸出業協同組合がまとめた22年10月の中古車輸出台数は、前年同月比3・6%増の10万7872台。そのうちロシア向けは同65・3%増の2万4625台と急伸し、ウクライナ侵攻以前より高い水準となった。5カ月連続の首位で輸出先で唯一2万台を超えた。2位のアラブ首長国連邦(UAE)も同55・9%増の1万5369台と大幅に伸びた。
「輸出業者は多少価格が高くなっても買っている。そのため国内の業者は予算内で買えず、仕入れが難しくなっている」(関係者)状況。円安・ルーブル高も後押しし、今後もロシアを中心に旺盛な需要が見込まれる。国内での仕入れ競争も長期化しそうだ。
存在感増す「共有在庫」
コロナ禍や中古車の玉不足が続く状況下で、仕入れ手段も多様化している。中でも各店舗の在庫情報を共有し、商談取引を行う「共有在庫」の存在感が高まっている。取扱商品が拡大することから、より顧客のニーズに合った中古車を供給できるのが特徴だ。また場所と時間を問わず確実に安定した取引ができる。
オークネットの共有在庫市場は1万4000会員が約6万台の在庫を掲載。22年5月から落札料を大幅に値下げするなど、共有在庫の活用を促進している。同社は長年、中古車オークションに軸足を置いてきたため売り手に目を向けてきたが「より買い手に寄り添ったサービスを展開していく」(大畑執行役員)方針だ。
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