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業務量6割削減、栗田工業が開発する水処理プラント設計を自動化するアプリの全容

業務量6割削減、栗田工業が開発する水処理プラント設計を自動化するアプリの全容

装置をグループ化し、配置を自動化したレイアウト図

栗田工業は人工知能(AI)ベンチャーのFractaLeap(フラクタリープ、東京都新宿区)と共同で、水処理プラントの設計を自動化するアプリケーションを開発中だ。完成すると基本設計の業務量を6割削減し、所要期間を4割短縮する。先行してレイアウト設計アプリのベータ(試用)版の運用を始めたばかりだが、栗田工業の設計陣は「期待できるツールができた」と生産性の向上に手応えを感じている。

長方形や五角形のブロックが並んだ画面が、水処理プラント全体のレイアウト図だ。ゲームのようにブロックを移動して配置を修正できる。これだけだと画期的と分からないが、設計陣のノウハウがつぎ込まれている。

栗田工業設計企画部の前田雄史部長は「なぜ、この装置をここに置いたのか、理由があるはずだが言語化が難しかった」と、自身の経験から振り返る。フラクタリープの開発陣も根拠が分からなければ、設計を自動化するアプリを作れない。開発陣は栗田のエンジニアに聞き取り、装置を1台ずつ配置しているようでもグループとして捉えていると分かった。フラクタリープの村井真也チーフ・プロダクト・オフィサーは「当たり前にやっていることを『グループ化』として言語化できた」と語る。レイアウト図の長方形や五角形は、何台もの装置が収まったグループ。そのグループ単位で移動できるのでレイアウト変更が早い。

メンテナンススペースも設計者の暗黙知だった。点検や部品交換の作業空間を確保しないと、設計をやり直さないといけない。「メンテスペースは実力の差が出る。経験値から空間情報を頭の中で描き、メンテスペースと分かる場所を図面に確保してきた」(前田部長)という。試用版はメンテスペースを可視化した。グループ化した装置を移動させると、メンテを考慮して方向も提案してくれる。この他にも配管の長さを最小にするように提案し、人による設計業務を減らした。

試用版は設計陣の意見を聞きながら完成させる。すでに現場から「仕事の質が上がり、省力化できる」といった感想が出ている。栗田もITを活用してきたが、必ずしも現場の声を反映できていなかった。今回は「最前線のメンバーが開発に協力した」(前田部長)という。フラクタリープの北林康弘社長は「何が問題なのか、追体験しながらアプリに展開した」と語る。

水処理プラントの大口ユーザーである電子産業は投資が活発で、栗田の設計陣も繁忙を極める。設計を自動化するアプリがすべて完成すると、現状の人員で生産性を1・5倍に向上できる。

フラクタリープは著名起業家の加藤崇氏が米国に設立したフラクタの子会社。米国でAIを活用した水道管の劣化予測を提供する。18年に栗田が子会社化した。水処理分野のデジタル革命が一気に進展してきた。

日刊工業新聞 2022年12月27日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
記事に盛り込めませんでしたが、顧客への提案スピードアップもメリットだそうです。すぐに提案でき、繁忙な電子産業の顧客満足度アップにつながります。業務量が減ると従業員もDXの効果を実感できそうです。

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