栗田工業、買収先トップ抜てきでRO膜薬品を世界展開
栗田工業は2019年に買収した米アビスタテクノロジーズのデーブ・ウォーカーCEOを、逆浸透膜(RO膜)薬品を世界展開するプロジェクトリーダーに抜てきした。栗田工業グループの全世界的なプロジェクトで、海外事業会社トップが責任者になるのは初めて。M&A(合併・買収)で得た人材の多様性によってRO膜関連事業の売上高を23年3月期には20年3月期比25%増の100億円を目指す。
「ビューティフルピクチャー!」。ウォーカーCEOは緑や青、赤の物体が映った画像を誇らしげに示す。顕微鏡写真は白黒だが、アビスタの分析技術によってRO膜表面に付着した物質が色分けされて視覚的に分かるようになった。
RO膜は細かい穴があいたフィルターであり、水中の微小な物質を除去できる。海水から飲料水をつくる用途が知られているが、工場では廃水を処理して再び工程に投入する水のリサイクルで使われている。
RO膜は使い続けると表面に有機物が付着し、目詰まりを起こす。アビスタの薬品は膜を痛めずに有機物を取り除く。独自の分析技術が強みであり、「膜の寿命を5年以上に延ばすこともできる。私たちは工場や膜に適切な薬品を処方できる」(ウォーカーCEO)と語る。市場から評価され、90カ国以上に薬品を供給する。
RO膜は、ウォーカーCEOの父親が勤務していた米国企業が発明した。自身も水処理企業に入ったが、買収されて人員削減が断行された。「私は残ってほしいと言われたが、いずれ必要ないと言われる」と思い、1999年に元同僚とアビスタを起業した。
現在、気候変動によって水不足が深刻化する地域が増えている。水のリサイクル市場の成長を見込んだ企業が、アビスタに買収を提案するようになった。栗田からの提案も「3回断った」(ウォーカーCEO)。だが、成長投資も必要であり栗田の話を聞くことにした。経営陣と膝詰めで議論し、「企業文化に親和性がある」と提案を受け入れた。
栗田はRO膜薬品の品ぞろえや供給、営業を世界規模で強化するプロジェクトを立ち上げ、アビスタを中核に据えた。プロジェクトリーダーとなったウォーカーCEOは「顧客第一、正直、良い仕事をする」が信念。現場からのたたき上げで経営者となり、事業を拡大させた経歴が人柄に表れている。日本人スタッフをまとめる上で最適な人物だ。RO膜を搭載した水処理装置メーカーである栗田とアビスタとの連携によって顧客第一を追求できる。また、お互いが成功体験を共有し、世界各地のニーズへの対応力も上がる。
日本企業による海外企業のM&Aは珍しくなくなった。技術力や既存顧客を狙った買収だけでなく、社員の人間性も見極めたM&Aが日本企業の人材を多様にする。