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『着眼大局、着手小局』、バンドー化学会長の経営哲学

『着眼大局、着手小局』、バンドー化学会長の経営哲学

吉井満隆氏

着眼大局、着手小局―。大局的な視点を持ちつつ、まずは目の前の小さなことから取り組む。最初から大きなことを成し遂げようとしても、できるものではない。バンドー化学の吉井満隆会長は2013年の社長就任時、小椋昭夫会長(当時)に経営の心構えを相談。その時にもらったこの言葉が、自然と自分の腑に落ちたという。

自動車用伝動ベルトの営業部長時代、取引先の日産自動車の担当者が外国人に変わる。そこで自分の英語力不足を痛感し、米国の語学学校に入った。その後、ヨーロッパ子会社の社長に就任するなど、別の道が開けていく。

経営企画部長に就任した際も、仕事と並行して神戸大学大学院へ通い、経営学修士(MBA)を取得した。「社長というのは、全てのことを分かっているわけではない。いかに人の話を聞くか。問題が発生した時にいかに勉強するか。それがないと、正しい判断はできない」。

バンドー化学は1906年創業。技術者の阪東直三郎氏が開発した木綿調帯を普及すべく、榎並充造氏らが出資し会社を興した。まさにベンチャー企業。その精神は時代が変わっても受け継がれている。吉井会長は若手時代、2輪車の自動変速機構向けの樹脂製品を顧客と共同開発し、社内の開発功労賞を受賞。その経験が、メーカーのあり方を深く考える契機となった。

吉井会長は社長就任時、社員の中でチャレンジ精神が希薄になっていると感じ、社内ベンチャー支援や、シーズ提案などの新制度を作った。その取り組みの中で実行に移したものの一つが、2019年の医療機器メーカーのAimedic MMT(東京都港区)の買収だ。「留まっていたら、むしろ後退する。前例にとらわれず挑戦しなければ」と、危機感を強く抱く。

本社を置く神戸での財界活動にも力を入れる。神戸経済同友会代表幹事を務めた際は、将来的なインバウンド(訪日外国人客)の回復を見据えた神戸の観光振興策を提言。11月には神戸商工会議所副会頭へも就任予定だ。神戸では30年前後の神戸空港国際化が決まった。ただ大阪・京都に流れる観光客をいかに神戸に引き寄せるか、空港までの交通インフラの強化をどう進めるかなど、課題は多い。

それに対し「財界として、需要予測の背景となるデータを提供し、採算性などを行政に提案することが大事だ」と冷静に構える。“着眼大局、着手小局”の姿勢は変わらない。(神戸・園尾雅之)

【略歴】よしい・みつたか 81年(昭56)関西大商卒、同年バンドー化学入社。03年バンドーヨーロッパ社長、09年バンドー化学執行役員。10年神戸大院経営修士修了。11年バンドー・ショルツ社長、同年バンドー化学取締役、13年社長、22年会長。広島県出身、64歳。
日刊工業新聞 2022年10月18日

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