ニュースイッチ

内燃機関系自動車部品メーカー、脱炭素時代の生き残り方

アナリストが見通すモビリティのミライ #06・サプライヤー変革
世界のモビリティー産業がカーボンニュートラル達成に向けてアクセルを踏んでいる。しかし、エネルギー不足や半導体の供給不安などを背景に市場の見通しを見極めることは難しい。そこで、モビリティー産業の動向を調査するS&P Global mobilityのアナリストたちに未来を見通す上で持つべき視点などを語ってもらう。

世界的な脱炭素化の要求により、内燃機関系のサプライヤーにとって厳しい事業環境が予想される。S&Pグローバル・モビリティーグローバル輸送&モビリティプラクティスリーダーのトム・デ・ブレシャウワー氏と同社プリンシパルリサーチアナリストの安宅広史氏が今後の市場の展望や生き残りの方法などを語る。

代替燃料の機会は正確に予測できない/トム・デ・ブレシャウワー氏

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」などを背景に、化石燃料は他の燃料に置き換えられていく可能性が非常に大きい。ただ、各国の排出規制による制限の程度によって多くが決まるため、地域による差違は避けられないだろう。このため、自動車メーカーにってパワートレーンの生産計画の策定は難しくなるだろう。

トム・デ・ブレシャウワー氏

水素燃料やe-fuel (またはその他合成燃料) で内燃機関車を走らせるなど、代替手段にチャンスはある。ただ現在、世界は不確実性と危機に満ちており、代替燃料の機会は正確に予測できない。しかし、不確実性からチャンスは生まれる。これは、前世紀に直面したあらゆる脅威に対してエンジニアリングソリューションを提供してきた自動車業界が十分理解している格言である。

合併や経営統合も選択肢/安宅広史氏

2030年に世界の新車販売の3割が電気自動車(EV)になると、内燃機関は7割になる。これは内燃機関に必要な部品市場が3割縮小する事を意味する。市場の縮小により、企業数の減少が起こる。これは過去に日本の電機業界が経験した通りで、今後自動車部品産業でも起こるだろう。

売り上げが減少する中で、同じ利益を確保するための費用削減には限界がある。同業他社との合併や経営統合は、企業存続に必要な売り上げを確保する一つの方法と言える。

技術面では熱効率40%以上を達成したエンジンが既に量産されている。これをさらに高める技術開発は、やめるべきではないと考える。フルハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に適したエンジン、あるいは発電専用のエンジンなど電動化されるパワートレーンに必要な高い技術を提供できる部品メーカーは十分生き残るチャンスがある。

課題は多いが、バイオ燃料やe-fuel、水素やアンモニアなどカーボンニュートラルな燃料も内燃機関の存続に期待されている。内燃機関の技術開発と進化の歩みは続くと考えられる。

また、国によって、内燃機関車の販売禁止後も特定エリア以外で内燃機関車の走行ができるなら、人気車に限っては補修部品以外に内燃機関車を長く楽しむ趣味としてのアフターマーケット部品市場が残るだろう。

安宅広史氏

一方、EV化への対応として、大手ティア1のサプライヤーは既にEV向けに製品ポートフォリオを拡大しているが、それでも内燃機関で確保していた収益の減少分を補うのは難しいと言われている。

ティア2以下の部品サプライヤーではさらに難しい。新たにEV向け製品への部品供給ビジネスを獲得する事が優先されるが、同時に自動車部品以外への事業転換も考えざるを得ない。その場合、自社が扱っている素材や加工技術、設備の棚卸しをして、同様の素材や加工技術、設備が使われている他業界の製品を研究する必要がある。不足する技術は、他社との技術提携で補う必要もあるだろう。

内燃機関車が減少する代わりに、充電・発電インフラ関連の製品市場は拡大していく。またEV生産に合わせて自動車メーカーの組み立て工場も変化しており、無人搬送車(AGV)を導入したフレキシブルな生産ラインが増えている。ティア1サプライヤーの工場でも同様の変化が見られる。移動体と見ればAGVも今後伸びていく市場の一つだろう。

自動車産業を補う規模の産業を見つけるのは大変だが、このように縮小する市場の代わりに成長する市場は必ずある。それらの中で自社技術を応用できる部品が使われていないか調査するなど、新しい事業を見つけるために視野を広げていく必要がある。

大手企業は社員を再教育して不足するソフトウエア技術者に転換する取り組みもしている。システム部品を開発していない部品サプライヤーは、他企業と組んでシステム部品の開発能力を得るなどし、人材面での転換を図る事も忘れてはいけない。

自働車メーカーやティア1も空飛ぶ車と言われている電動垂直離着陸機(eVTOL)やドローン燃料電池、航空宇宙産業、農業などへ事業の転換と拡大を試みている。そのような取引先の変化の中に、次のビジネスチャンスが無いか注目することもいいだろう。

特集・連載情報

アナリストが見通すモビリティのミライ
アナリストが見通すモビリティのミライ
世界のモビリティー産業がカーボンニュートラル達成に向けてアクセルを踏んでいます。しかし、エネルギー不足や半導体の供給不安などを背景に市場の見通しを見極めることは難しくなっています。そこで、モビリティー産業の動向を調査するS&P Global mobilityのアナリストたちに未来を見通す上で持つべき視点などを語ってもらいました。

編集部のおすすめ