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東芝のスポンサー選び大詰め。判断ミス2回、3度目の正直なるか

経営判断ミス2回、3度目の正直なるか

東芝の経営再編をめぐるスポンサー選びが最終局面に入った。文字通り東芝の命運を左右する重要な決断となり、失敗は許されない。ただ東芝は2015年に不正会計が発覚し経営危機に陥って以降、大きな判断で2回失敗した。三度目の正直となるか、予断を許さない。(後藤信之)

▽21年4月、車谷暢昭社長(当時)が突然辞任▽同6月、永山治取締役会議長(当時)が定時株主総会で再任されず▽22年3月、臨時総会で東芝が提案した会社2分割案が否決される―。

東芝の経営は混乱が続く。最大の要因は東芝に出資するモノ言う株主の存在だ。短期的なリターンを求めるモノ言う株主と、安定成長を目指す東芝はすれ違ってきた。今回の経営再編は、新たなスポンサーを得て株式を非公開化しモノ言う株主と決別することが主眼だ。

日本産業パートナーズ(JIP)を軸とする陣営を主力候補として選定作業を進めており、年内にも結論を出す方向。安定成長の実現のため、どういった条件で、どのパートナーを選ぶか。失敗が許されない決断となる。

東芝がモノ言う株主を呼び込んだのは、17年12月に実施した6000億円の増資が原因だ。東芝は当時、2期連続の債務超過で上場廃止となる事態を避けるため、東芝メモリ(現キオクシア)の売却を進めていたが、18年3月期中に手続きを完了できないことが濃厚となった。そこで窮策として打ち出したのが増資。60の海外ファンドが出資者となり、「声」の大きいモノ言う株主も含まれていた。

そもそもなぜ東芝は債務超過に陥ったのか。直接的な原因は、原子力発電事業をめぐる失敗にある。

当時、同社は米国子会社ウエスチングハウス(WH)を通じ、米国で二つのプロジェクトを進めていた。11年の福島原発事故を受け、米国でも安全規制が強化されコストが膨らんだ。誰が、どんな配分で負担するか。発注元の米電力会社、WH、米建設会社の間で訴訟合戦が起きた。

事態が動いたのが15年秋。WHが建設会社を買収する一方で、電力会社は建設コストの上乗せなどを認めることで合意し、和解した。見逃せないのは、この際にWHが電力会社と交わした「固定価格オプション」契約。電力会社が再設定した建設コストの上限を超えた分は全てWHが負担するとの内容で、東芝を巻き込む巨額損失の芽が生まれた。その後、建設コストはその上限を超え、負担を被ったWHは経営破綻。東芝は原発関連で1兆円を超える損失を計上し、債務超過に陥った。

歴史に「if」はないが、WH破綻へとつながる企業買収・固定価格オプション契約、上場維持にこだわり実施した6000億円の増資という二つの大きな失敗がなければ今、東芝の状況は変わっていただろう。

同社は不正会計発覚を受け、15年に取締役の過半を社外取締役にするコーポレートガバナス(企業統治)強化を実施。社外取に著名な経営者や学識経験者を招き再出発した。にもかかわらず、大方針を決める重大局面での判断ミスを防げなかった。

要因として考えられるのは政府との距離が近いことだ。同社はエネルギーや防衛関連など国策に関わる事業を手がける。コーポレートガバナンスに詳しい八田進二青山学院大学名誉教授(大原大学院大学教授)は、日本航空(JAL)で社外監査役を務めた経験も踏まえ「政府から有形無形の支えを得られる半面、振り回されたり、忖度を生み出したりするリスクを抱える」と指摘する。実際、東芝が上場維持にこだわったのは「公共事業の入札資格を失うなどで政府に迷惑がかからないよう忖度したことも背景にある」と関係者は明かす。リスクを横目に米国で原発事業を推進したことには、国策だった原発輸出への配慮が透ける。

政府との距離は今も変わっていない。さらに現状では取締役会メンバーも大きな心配の種だ。社外取10人のうち6人がファンドが関与する人物となっており、八田名誉教授は「日本企業が経験したことのない事態。取締役会で日本人の常識とは、かけ離れた判断がなされてもおかしくない」と指摘する。

東芝が国益に資する技術や人材を有するのは事実。今回の非公開化をめぐるスポンサー選定でベストな判断を下すことを多くのステークホルダーは願っている。しかし三度目の正直とはいかず、「二度あることは三度ある」事態となる可能性は小さくない。


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日刊工業新聞 2022年11月10日

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