世界の自動車産業が抱える潜在的リスクと半導体不足の行方
世界のモビリティー産業がカーボンニュートラル達成に向けてアクセルを踏んでいる。しかし、エネルギー不足や半導体の供給不安などを背景に市場の見通しを見極めることは難しい。そこで、モビリティー産業の動向を調査するS&P Global mobilityのアナリストたちに未来を見通す上で持つべき視点などを語ってもらう。初回はシニアバイスプレジデントのティム・アームストロング氏。
―世界の自動車市場の現状について。
「高インフレと金利上昇に加え、消費者心理の冷え込みもあり、消費者需要の水準がコロナ前に回復するのか疑問視されている。世界最大市場の中国ではコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)の脅威が継続し、政府の需要刺激策が生産と販売を支えているが、潜在的なリスクをぬぐいきれない」
―半導体不足については。
「自動車メーカーは枯渇した車両在庫の補充に向け、多様な半導体の安定確保を目指している。半導体供給は改善が続くが、2023年も自動車生産の大きな制約要素となる。新規投資で半導体の生産能力が拡張される24年までは根本的な緩和は見込めないだろう」
―日本の電動車市場をどう分析しますか。
「日系自動車メーカーもEVに力を入れるが、日本の電動車市場はハイブリッド車(HV)が圧倒的に優勢。EVシフトを進めるとしても、電力が非化石の燃料源から生産されない限り、地球温暖化の問題を解決できないことが懸念だ」
「HVは二酸化炭素(CO2)排出削減の効果的な方法と考えられており、日本でのHV販売は今後も増加が予測される。(EVシフトが活発化する中)今後数年で日本の消費者の環境対応車への嗜好がどう発展するのか興味深く見守りたい」
―脱炭素には、製造から使用までのCO2排出量を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」が欠かせません。
「自動車業界でLCAを達成するには、材料の生産から車両の製造、使用、廃棄時に使われるエネルギーまでを考慮する必要があり、今後、より広範な規制が敷かれるかもしれない。このため、ライフサイクル全体を考慮した取り組みは戦略的優先事項となり、多くの自動車メーカーが具体的な行動を進めている。最善の道筋は循環経済であり、再生可能な電力や循環的な材料の利用が有効になる」
―サプライチェーン(供給網)にも変化の兆しが見て取れます。
「世界中に張り巡らされた供給網を逆転させ、現地化に回帰する傾向が見られる。自動車業界はこの変化の最前線に立とうとしている。日本の自動車業界も部品供給網の国内回帰など現地化を進める方向にあるが、その要因は海外人件費の上昇と為替の円安がある。完成車工場の近くで部品を調達できれば、物流に関わるCO2排出量の削減にも寄与し、完成車各社の脱炭素目標にも沿うものになるだろう」