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働きやすい職場作りへ、旭化成が活用する作業負荷を定量化する独自手法

誰でもが働きやすい職場へ
働きやすい職場作りへ、旭化成が活用する作業負荷を定量化する独自手法

作業者の動きをデジタル化して「デジタルツイン」を作成し、これを動かして姿勢のつらさを評価する

旭化成は、さまざまな作業負荷を独自に定量化し、働きやすい職場作りへの活用を始めた。製造現場の大変さは重量物を運ぶようなきつさだけではなく、品質検査での眼精疲労や無理な姿勢などさまざま。失敗による損害額が大きいほど作業者へのストレスも大きくなる傾向がある。同社は定量化した数値を、投資効果の見える化や優先順位付けに活用する。誰もが働きやすく人が主役のモノづくり現場を実現し、生産性の向上を目指す。

「若い人を中心に人口が減る中、人材は集まりにくくなる。働きやすい職場にし、今は表面化していないリスクも解消したい」。生産技術本部の北田敏夫生産技術センター長は定量化の狙いを語る。

これまで安全基準や重量物などを中心に改善してきたが、基準内でも人材定着率に違いが出るなど、従来の方法では測れない大変さもある。そこで「まず負荷を定量化し、下げよう」(松下雄史同センター産機システム技術部主査)となった。

具体的には、肉体的なきつさに加え、精神因、汚れや暑さなどの環境因、危険を感じるか否かの4種類に分けて、作業のきつさを数値化。これを作業時間と積算することで、作業負荷を定量化した。

例えば、姿勢解析では自動車業界で使われるOWAS解析ソフトを使う。モーションキャプチャー技術を使い作業者の動きをデジタル化し解析すると、体の中で負担のかかる部分を赤く表示する。改善技術の導入も、最初にデジタル上で行い、解析ソフトで負荷低減の効果を確認できる。この姿勢解析は作業負担の軽減につながる新たな工場設計にも活用されているという。

現在、10以上の工場が作業負荷定量化を取り入れ、改善に役立てている。重たい箱を繰り返し動かす作業をロボットに置き換えたほか、協働ロボの導入を検討中の作業もある。改善内容は珍しくないが、数値を基に技術導入の優先順位付けや経営判断の材料にできるため、限られた予算の中でより効率的な改善投資を実施できる。また、作業ごとのきつさの内訳を見える化することで「改善のアイデアにも役立てられる」(北田センター長)という。

「最終的にはモチベーションの向上につなげたい」と松下主査は話す。この取り組みは産業技術総合研究所の「『人』が主役となるものづくり革新推進コンソーシアム」でも検討され、他社も興味を持ちはじめている。

今後、社内外で数値化を広め、より働きやすい職場を目指す。(梶原洵子)

【ポイント】

現場の感覚と負荷数値がずれる時もあるという。慣れで大変さを感じていない場合は次の人材が定着しにくい可能性もあるため要注意。逆のズレもある。現場感覚とすり合わせ、定量化方法の向上も進める。


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日刊工業新聞2022年10月13日

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