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ここが変だよ!改善活動を継続しろ!しろ!という監督者・管理者

工場管理 2022年10月号特集「気づきは改革の種 続・生産現場の“ここが変だよ!”」抜粋

改善活動を続けろと言うだけでは続かない

コンサルティングを行っていると、多くの工場管理者から「改善活動を継続するのは難しいです」という言葉を聞く。“継続は力なり”という言葉がある通り、確かに改善を継続しなければ競争に勝ち続けることはできない。「だから、『改善を継続することは重要だ』と従業員にもいつも言っているんですよ。でも言うのをやめると、続かないんです」と工場管理者からは嘆きの声が聞こえてくる。一方、従業員は「改善を継続しなくてよいと思っているわけではないんですけど…」と困惑した表情。この「…」の中にどんな意味があるのだろうか。

工場で働く人たちは日常業務を持っている。作業現場の人たちは、毎日決められた数量の製品を生産しているし、スタッフたちはそれぞれの部門の決められた仕事をしている。それだけでも忙しいのである。いってみれば、毎日日常業務という坂道を登っているのである。ここに改善活動を加えるということは、さらに急な坂道を登ることになるのである。さらに急になった坂道を「なんで登り続けないんだ、登り続けろ!」と言うだけの管理者が多いと感じる。それで「改善活動を継続するのは難しいです」と嘆いていても、継続はしないのである。

仕事が忙しくてもゴルフは続くのに、改善活動は続かないのはなぜ?

読者の皆さんは、仕事とは別に何か楽しく、あるいは夢中になってやっている趣味や遊びはないだろうか。その趣味や遊びは、忙しい仕事をしながらも、なぜ続けられているのだろうか。もしゴルフを始めた時に上司から「目標はいくつで回るんだ?目標をちゃんと決めろ!」とか「なんで目標達成できないんだ、挽回策を来週までに考えて報告しろ!」と言われ続けたら、この人はゴルフを「よーし!」と前向きに続けられるだろうか。続ける人はほとんどいないだろう。皆さんの工場での改善活動は、このようになっていないだろうか。

前述の通り、忙しい日常業務の坂を登っている従業員が改善活動をするということは、さらに急な坂を登る必要があるのだ。ただでさえ急になった坂を登らなければならないのに、「何をやっているんだ、どうしてやらないんだ」と言っても継続するはずはないし、これで継続したらおかしいくらいである。

改善活動が自律的に継続するには、管理監督者の仕掛けと努力が必要

ものごとに夢中になったり一生懸命になったりするには仕掛けが必要である。この仕掛けを意識あるいは実行していない管理監督者が多いことが、改善活動が継続しない原因だと認識することが重要である。

ゴルフを例にすると、最初はビギナーズラック的なナイスショットが、夢中へのきっかけになることが多いのではないだろうか。この時に「初めてのラウンドなのにすごい!」とか「センスあるね~」とか言われて、何かが少しうまくいったことで、そしてそのことを周囲の人が認めてくれたことで、良い気持ちになる。この気持ちが「達成感」である。達成感とはたいていの場合、できなかったことができた時、そしてそれを誰かが認めてくれた時に感じるものである。この達成感を感じると人はもう少し頑張ってみようと思うものである。

もう少し頑張ると、ナイスショットが増えてきて、スコアーも150 → 130 → 110 と良くなっていく。こうなると「少しうまくなってきたな~」と思うのである。これが、自身の成長を感じて嬉しくなる「成長感」というものである。

そして、この頃に接待ゴルフに行き「君のおかげで今日の接待はうまくいった」などと言われるとまた嬉しくなる。この嬉しさは「存在感」を感じたのである。自分が役に立つ人間であると感じると、もっともっとと頑張るようになるものである。

そうすると人間は不思議なもので、少し高い目標を自ら設定して臨むようになるのである。もっとうまくなりたい、100 を切りたい、シングルになりたいと、どんどん高い目標を誰から言われることもなく設定していくのである。これを「目標感」と呼ぶ。

以上のように、人が何かに夢中になっていく、一生懸命になっていくには、「達成感」→「成長感」→「存在感」→「目標感」の流れをつくることが重要なのである。そしてこの「目標感」が達成できると「達成感」をまた感じ、自律的にものごとを行うサイクルが生まれるのである。

さて、継続しない改善活動を振り返っていただきたい。このような流れができているだろうか。従業員の1 人ひとりにこの流れが生まれているだろうか。この流れがない中で坂道を自ら進んで登る人はいないわけで、怒られた時だけちょっとやっても、継続するわけはないのである。まれに、自らこの流れをつくって自律的に改善活動を進める人も存在するが、多勢に無勢で、いずれこの人も改善活動をやらなくなってしまうのである。

管理監督者がまず認識すべきは、改善活動が継続しないのではなく「改善活動がそもそも始まっていない」ということなのである。改善活動の始まりは、従業員1 人ひとりが改善に「達成感」を感じることである。そのためのマネジメントを1人ひとりに対して実行できているだろうか。もし「そんな時間はない」「そんなのは仕事なのだから言われないでもやるべきだ」などと思っていたら、まだ改善活動自体が始まっていない、と認識すべきだ。

具体的にやるべきマネジメントは、1 人ひとりのモチベーションレベル、改善する力などによって変える必要があるが、1 カ月以内に改善に対する達成感を感じるようアプローチすることが重要である。それを2 カ月、3 カ月、半年と続けていけば達成感、そして成長感を感じるようになる。その改善内容を工場幹部が現場で「いいね」と評価するよう仕掛ける。他の職場の従業員にも職場見学の機会を設け、「あなたの改善が他の職場でも横展開されました、素晴らしいことです」と評価していくなどの仕掛けで存在感を感じ、自律的な動きが出始めるのである。管理監督者は、このようなことにどれだけ時間を割き努力できるかが勝負なのである。この努力をせず、「発表会や評価表彰の仕組みはあるのに…」と思っているなら、継続はほど遠いのである。

【執筆者紹介】

筆 者: 石山 真実(いしやま まさみ)
日本能率協会コンサルティング 生産コンサルティング事業本部 プロセス・デザイン革新センター シニア・コンサルタント

雑誌紹介

雑誌名:工場管理 2022年10月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円
【特集】
工場管理 2022年10月号  Vol.68 No.11
気づきは改革の種 続・生産現場の“ここが変だよ!”

2021年10月号特集「気づきこそ成長の糧 生産現場の“ここが変だよ!”」の続編。生産現場で当たり前、常識と化していることにメスを入れ、改善すればもっと良くなるというテーマを「ここが変だよ!」と問題提起し、改善の着眼点を提示。現状の何がおかしいのか、原因を追究する「思考力」を高めることにより、改善の深掘りを促し、考える現場の育て方を伝授する。エピソード、なぜか、解説の3つの構成で示す前回のスタイルを継続。マネジメント、改善の着眼、標準化、TPM・設備保全、工場建設・工程設計へ領域を広げて「ここが変だよ!」と思われる事象を取り上げる。個人の気づきを現場の課題として捉え、どう改善に取り組むべきかを解説。伸びる現場に導くための管理監督者の役割も示す。

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工場管理10月号特集

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