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国鉄民営化とソフトバンク誕生、あまり知られていない関係性とは

おすすめ本の抜粋「知られざる国鉄遺産“エキナカ” もう一つの鉄道150年」
 2022年10月14日、日本における鉄道開業150年を迎えました。国鉄の長い歴史の中で、最大のエポックメーキングとなったのが国鉄分割民営化(1987年4月1日)。JR発足は鉄道開業から培ってきた「国鉄史観」「鉄道至上主義」からの決別でもあります。
 JTB、鉄道弘済会、日本通運など、国鉄から独立する形でエキナカ企業は誕生しました。その1つである日本テレコムは、現在のソフトバンク。ソフトバンクにたどり着くまで、日本テレコムは迷走を続けることになります。
 国鉄からJRに駆け抜けた時代、改めて振り返る機会として書籍『知られざる国鉄遺産“エキナカ” もう一つの鉄道150年』(髙木豊著)から一部抜粋し掲載します。

国鉄分割民営化が招いた日本テレコムの悲劇

JRの内線電話、鉄道電話「JRほっとライン」は今、ソフトバンクの基幹通信網のサービスだということはあまり知られていない。ソフトバンクはJR構内外にある基幹通信網を所有し、「JR鉄道電話サービス」を展開している。JRとソフトバンクとは親和性が薄く、理念、社風ともに対極にあるイメージが強いが、ここにも国鉄分割民営化の予期せぬドラマが隠されている。

【NTT独占打破への期待を担う】
 国鉄は全国ネットの基幹通信網インフラも自前で持っていた(図)。国鉄改革のテーマは鉄道再生がメーンだが、改革シナリオの唯一とも言える有望な成長分野が情報通信分野だった。
 1987(昭和62)年7月の国鉄再建監理委員会答申では、第2章の旅客会社、貨物会社などの「効率経営形態の確立」の中で「基幹的通信」の項を設け、「分割民営化した場合、会社間の業務用通信や複数会社間を結ぶ情報システムが必要で、旅客会社等が共同出資する会社となる」とし、全国ネットのJRグループとしての新会社設立を促している。しかも、「当面旅客会社の業務用通信を行うが将来は一般ユーザーを対象にした事業展開が期待される」という日本電信電話(NTT)に対抗する長距離系新電電への参入を期待している。

図 国鉄基幹通信網

監理委答申の8か月前の84年10月、情報通信分野の国鉄系戦略子会社として日本テレコムが設立されている。84年12月の電気通信事業法改正に伴う通信自由化を見据えた新規参入で、国内長距離電話としては日本テレコムのほかに京セラ系の第二電電、トヨタ系の日本高速通信が参入している。国際電話では日本国際通信(ITJ)と国際デジタル通信(IDC)、市内電話では東京電力系の東京通信ネットワーク(TTNet)も参入し、NTTの通信独占体制に風穴を開けようというものだ。
 日本テレコムは資本金90億円、国鉄出資は持ち株比率3割以上の30億1000万円で、ほかに商社、銀行など民間に資本を仰いだ。本社は東京・丸の内の国鉄本社内で、社長には前国鉄副総裁の馬渡一眞、会長には日本長期信用銀行会長・杉浦敏介が就任した。

国鉄は自営の通信網がある上、全国に光ファイバー網敷設に適した線路用地を所有している。情報通信の技術レベルも高く、技術者も豊富だ。トップへの大物布陣も、新電電トップ企業への期待の表れと言えよう。まず東京―大阪間に光ファイバー網を敷設し、専用線サービス、一般電話サービスへの進出を計画するなど、強気な設備計画にも説得力がある。
 国鉄は日本テレコムとは別に、監理委答申に則って、86年11月の国鉄改革法成立に伴う国鉄改革法第11条に基づき、同12月、鉄道通信、鉄道情報システムを設立した。国鉄改革法第11条とは「国鉄の電気通信、情報業務のうち旅客、貨物事業の一体的運営が適当であるものについては、旅客、貨物以外の法人に引き継がせるものとする」とする条文に基づき、両社は国鉄承継法人第1号の指定を受けた。いずれも国鉄100%出資会社で、旅客会社、貨物会社などに先立つ指定となり、国鉄系通信グループへの期待が大きいことがわかる。

鉄道通信は国鉄の全国ネットの通信網を引き継ぐ基幹的通信会社で、第1種の電気通信事業者。資本金は32億円、従業員は570人規模、社長には国鉄技術陣のトップ技師長の坂田浩一が就任した。営業開始は旅客会社同様、分割民営化時点の87年4月で、マイクロ無線網7070キロメートル、同軸ケーブル1560キロメートル、光ケーブル770キロメートル、一般ケーブル140キロメートルの計延べ9540キロメートルを国鉄から引き継いだ。ほかに電話交換所53、無線中継所165も承継した。初年度から黒字見込みで、国鉄からの承継債務360億円も負う。
 鉄道情報システムは旅客情報システム「MARS(マルス)」や貨物コンテナの情報システムなどJR各社の根幹をなす情報システムを引き継ぎ一元管理する、第2種電気通信事業者。全国約1600か所のみどりの窓口から瞬時にレスポンスできるマルスは国鉄が誇る世界一のオンラインリアルタイムシステムと言われている。営業開始は鉄道通信と同じ87年4月。初年度から黒字を見込み、承継債務170億円を引き継いだ。

国鉄分割民営化で、承継債務を引き継いだのはJR本州3社、JR貨物とこの情報通信2社だけ。北海道、九州、四国のJR3島会社は承継債務どころか、経営安定基金という持参金付きで新発足している。この情報通信2社の将来性への期待がいかに高かったかわかる。

(「知られざる国鉄遺産“エキナカ” もう一つの鉄道150年」p.87-89より抜粋)

<書籍紹介>
書名:知られざる国鉄遺産“エキナカ” もう一つの鉄道150年
著者名:髙木豊
判型:A5判
総頁数:300頁
税込み価格:2,970円

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
日刊工業新聞ブックストア

<目次>
<第1部 国鉄の115年とJRの35年>
第1章 国鉄遺産 駅空間
第2章 国鉄分割民営化の衝撃 ―エキナカ巨人の解体―
第3章 国鉄改革をエキナカから考える
第4章 エキナカから見る「国鉄一家」の功罪
<第2部 知られざる駅弁文化>
第5章 エキナカ絶滅危惧種「駅弁」の危機
第6章 駅弁は日本が誇る文化遺産

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