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自動運転で北海道”ほぼ”一周、新興が実証

TURING(チューリング、千葉県柏市)は、開発する自動運転ソフトウエアを搭載した自動車で北海道を1周する実証実験を実施し、総距離1480キロメートルの内、約95%を自動運転システムで走行することに成功した。同社によれば、北海道全域を対象にした自動運転の実証は初めてという。今回の成果を生かし、2023年中にも既存のガソリン車に高度な運転補助を行う「レベル2」のシステムを搭載して販売する。

今回の実証は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて実施した。長距離での自動運転システムの実用性や耐久性を検証した。ルートは函館から札幌・旭川・稚内・釧路・帯広を経由して、道内を1周した。

青木俊介共同代表兼最高技術責任者(CTO)は「地方ごとに道路状況が異なるという発見があった。より幅広い場面で使えるように人工知能(AI)の精度を高めていく」と話す。23年中にも既存のガソリン車に自動運転システムを搭載し販売する。同時にAIの学習時間を5万時間確保して、自動運転の精度を高める計画だ。

物体の距離を測るLiDAR(ライダー)などの高価なセンサーを使わずに、車載カメラの映像のみでAIが運転の判断を下せるようにする。将来は開発するシステムを搭載した電気自動車(EV)の販売を目標に掲げる。

チューリングはAIシステムを手がけるHEROZ(ヒーローズ)で将棋AI「ポナンザ」の開発リーダーを務めた山本一成共同代表兼最高経営責任者(CEO)と、米カーネギーメロン大学で自動運転の研究開発をしていた青木共同代表が21年に設立した。

〈インタビュー〉青木共同代表

青木共同代表(同社提供)

--長距離の実証を初めて行いました。現在の自動運転システムの課題などはどこでしょうか。

地方によって異なる道路状況に対応する必要がある点だ。実証では中央分離帯のポールの色やサイズが開発環境と異なる点もあり、自動車が想定の走行をしないこともあった。どこの地方に持って行っても使えるようにしていく必要がある。そのためにAIを学習させるデータが重要だ。物流企業などと協力して質の良いデータを集めることも検討している。

--23年にも既存のガソリン車にレベル2の自動運転システムを搭載して販売する計画です。その後の展望について。

レベル2に関しては極めて順調だ。標準装備されている先進運転支援システム(ADAS)を利用して、開発するシステムを導入する予定だ。

25年には100台の生産を目指している。ただ、生産台数が100倍になるということは今までのやり方だけでは到達できない。製造ノウハウが必要な点を考慮すれば、自動車メーカーや商社などとの協業も視野に入れたい。

--普及に向けては天候に左右されず使える安全性や価格面も重要です。

天候に左右されないという点は問題ないと考えている。今回の実証でも悪天候な中でも走行できた。今後はユーザーの体験価値を高めることを意識したい。例えば横をトラックが走っている際、少し距離を取ってあげるなどが挙げられる。(完全自動運転のレベル5では)ユーザー自身が運転しないからこそ、より不安感を消し去ることが必要だ。

また、登場当初の自動運転システム搭載車は高価になるだろう。ただ地方などで、どうしても運転せざるを得ない状況に置かれている人にこそ自動運転は使われるべきだ。そのために価格を下げる取り組みは進めて行きたい。ライダーなどの高価なセンサーを搭載しないことで、価格面での優位性は打ち出せると考えている。

日刊工業新聞2022年10月12日の記事にインタビューを追記

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