“受注産業体質”脱する凸版印刷、社長が重視する攻めの姿勢とスピード感
新型コロナウイルス感染症の拡大や、ウクライナ危機など、不確実性の高い「VUCAの時代」。「顕在化されたニーズに応えるだけではなく、ニーズを先読みし、掘り起こしていくことが求められる」と麿秀晴社長は話す。「凸版印刷の社員は真面目で、顧客からの信頼を大きな財産としてきた。ただ裏を返せば、飛びだそう・挑戦しようという気になりにくい」。印刷産業は受注産業で、その体質から脱却する必要があると認識する。
凸版印刷では、中長期の成長を見据えた事業ポートフォリオ変革を進めている。社員が自分の守備範囲を広げ、挑戦する企業風土の構築が求められている。ステークホルダーの期待値を越えた付加価値を提供するため、攻めの姿勢とスピード感を重視する。
こうした思いから、現場の課題や新規事業を社長に対して直接プレゼンテーションできるイノベーションプログラムを始めた。「自分が現場に居たときは、社長に提案する機会なんてなかった。良いテーマはすぐ実行させている」。
さまざまな取り組みを進める中で、社長は会社の方針を固める“最後のバリアー”のような存在だ。「最終的には腹をくくってジャッジしないといけない。大きな責任が伴う仕事」と認識する。一方で、「理屈ではそのような予想になるが、感覚的にちょっと違うなと思うこともある。過去のさまざまな経験から、五感が磨き上げられてきた」と話す。
そんな麿社長の経歴を振り返ると、営業や製造、開発、海外部門まで幅広く歴任。過去、特定の事業部で専門性を突き詰めた人が経営者層に多い同社の中では珍しい。「新人時代は地方企業の経営者に会い、従業員の大切さなどいろんな話を聞いてきた。トータルの経験が役立っている」と振り返る。
「社長が満足するとその企業の成長はない」と、社長になった今でも学ぶ姿勢・向上心を忘れない。入社2年目には、自身のキャリアープランを独自に作成。会社がグローバル化していくことを見据え、独学で英語や中国語の勉強もした。「学生の時は、1年生の教科書が終わると2年生の教科書が与えられるが社会人にはそれがない。自分で自分の枠を決めてしまうと、ポテンシャルを発揮できない」。
好きな言葉は「質朴剛健」。周囲の意見を素直に受け入れながらも、「主張すべきことはするという、強さのある謙虚さ」を大切にしている。(狐塚真子)
【略歴】まろ・ひではる 79年(昭54)山形大工卒、同年凸版印刷入社。09年取締役、12年常務取締役国際事業部長、13年シンガポール支社長、16年専務取締役経営企画本部長、18年副社長、19年社長。宮城県出身、66歳。