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迫る「ノーベル賞」発表…日本人の有力候補者は?

ノーベル賞の季節がやってきた。自然科学3賞は10月3日に生理学医学賞、同4日に物理学賞、同5日に化学賞が発表される。2021年は米プリンストン大学の真鍋淑郞上席研究員が物理学賞を受賞しており、日本人の2年連続受賞に期待がかかる。一方で、新型コロナウイルス感染症のワクチン・治療薬の開発の基盤技術の受賞も有力視される。自然科学3賞の候補者と研究成果を紹介する。(小寺貴之、飯田真美子)

生理学医学賞

カリコ氏 コロナ「mRNAワクチン」成功

カリコ氏

22年の生理学医学分野では、新型コロナ感染症の予防につながる「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」の開発に必要な技術を構築した米ペンシルベニア大学医学部客員教授のカタリン・カリコ博士が有力だ。カリコ氏は、体内で分解して炎症を引き起こしやすい遺伝物質「mRNA」に注目。mRNAを構成する一つの物質を別の物質に置き換えると、炎症反応が抑えられることを見いだし、ワクチンに適用できる基盤となった。

9月には世界保健機関(WHO)のデドロス事務局長が「新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の終わりが視野に入った」と発言。貢献の大きいワクチン関連の受賞は有力視される。

長谷川氏 「TDP―43」を発見

長谷川氏

生理学医学賞は、病気の原因物質の特定や機構解明などに貢献した研究者も多く選ばれている。東京都医学総合研究所の長谷川成人脳・神経科学研究分野長は、脳の神経が変性することで引き起こされる疾患の進行に関わるたんぱく質「TDP―43」を発見した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)などの治療や創薬研究を加速させた。長谷川氏はノーベル賞の登竜門である「クラリベイト引用栄誉賞2022」の生理学・医学分野の受賞者に選ばれた。

その他、たんぱく質を作る「小胞体」内の変性したたんぱく質の検出と修復の仕組みを発見した京都大学の森和俊教授や、関節リウマチの発症に関与する可能性が高いたんぱく質を発見した大阪大学の岸本忠三特任教授らが候補となっている。

物理学賞

理研で開発中の量子コンピューター(理研提供)

物理学賞はブラックホールや宇宙論を扱う天文学分野と、素粒子や電荷結合素子(CCD)、発光ダイオード(LED)などの物質を扱う分野に分けられる。理論物理や計算物理の受賞が続いたため、22年は実験物理で実際にモノを作った物質関連分野の研究が想定される。

香取氏 光格子時計を開発

香取氏

同分野では光格子時計を開発する東京大学の香取秀俊教授が有力候補に挙げられる。香取教授は01年に光格子時計の理論を発表し03年に基礎実験に成功。14年には18ケタの精度で時を計ることに成功した。国際度量衡総会では30年をめどに「秒」を再定義する決議がなされる予定だ。

中村氏 量子コンピューター研究の先駆け

中村氏

同分野で近年活況なのが量子技術だ。超電導やイオントラップなど、物理学賞をとった技術からさまざまな方式の量子コンピューターが提案されてきた。理化学研究所量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長・東大教授は99年に超電導方式の量子ビットを作ることに成功。量子コンピューター研究の先駆けになった。

同じく理研・東大の古沢明教授は98年に量子テレポーテーション実験に成功。量子もつれを利用し離れた場所に量子状態を送った。この研究をベースに光量子コンピューターの開発を進める。光と量子もつれを利用すると10テラヘルツ(テラは1兆)のクロック周波数で動く計算機が視野に入る。既存の量子コンピューター研究を覆す。

またネオジム磁石を発明した佐川真人大同特殊鋼顧問も有力候補だ。

化学賞

松村氏 EPR効果提唱、DDS研究の基礎

松村氏

化学賞は02年からの20年間で12回がゲノム編集や膜たんぱく質、クライオ電子顕微鏡などの生化学や生命科学を支える分析化学から選ばれている。この分野では国立がん研究センター研究所の松村保広客員研究員が有力候補だ。抗体などの高分子たんぱく質が、がんの腫瘍に集積するEPR効果を86年に提唱した。これは薬物送達システム(DDS)研究の基礎となった。

国武氏 人工の脂質二重膜を世界で初の合成

国武氏

また人工の脂質二重膜を世界で初めて合成した九州大学の国武豊喜特別主幹教授も有力候補だ。人工脂質二重膜の技術は膜たんぱく質の機能評価やバイオセンサーの開発に生かされている。さらに有機分子を組織化する知見を生かして、高分子を使った極薄膜を開発した。現在は極薄膜を用いて大気から二酸化炭素(CO2)を分離回収するシステムが開発されている。

脱炭素も注目テーマになっている。脱炭素へ材料化学の貢献は大きい。2000年以降は00年の導電性高分子や19年のリチウムイオン電池が選ばれた。

材料化学は日本が強い研究分野でもある。光触媒を発明した藤嶋昭東京理科大学栄誉教授・東大特別栄誉教授や鉄系超電導や酸化物半導体「IGZO」を発明した東京工業大学の細野秀雄栄誉教授、ペロブスカイト太陽電池を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授も有力候補になる。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と積水化学工業が開発したペロブスカイト太陽電池

再生可能エネルギーや省エネ技術の拡大、人工光合成による水素社会を目指す上で重要な成果をあげてきた。

海外の有力テーマ

約120年の歴史があるノーベル賞。生理学医学と物理学、化学の3賞のほか、文学と平和、経済学の6分野に与えられる。賞金は1賞につき1000万スウェーデンクローナ(約1億2645万円)。一つの賞で最大3人が受賞し、その場合、賞金は分け合う。日本人の受賞者数は米国に次いで2位。

自然科学では融合分野での受賞が増えているのが近年の傾向だ。特に、化学賞は生理学医学と物理学で候補に挙がった研究者の受賞が目立つ。

国際研究グループ 巨大ブラックホールの影を撮影

巨大ブラックホールの影の撮影に成功した国際研究グループが受賞候補に上がる。天の川銀河中心のブラックホール「いて座Aスター」の画像(EHT Collaboration提供)

海外にも有力なテーマは多い。中でも巨大ブラックホールの影の撮影に成功した国際研究グループは21年に続き有力候補。5月には世界で2例目となる巨大ブラックホールの影の撮像を発表し、ノーベル賞受賞がより近くなった。

また、南極にある素粒子観測装置「アイスキューブ」で素粒子の一種「反ニュートリノ」の観測に初めて成功した国際研究グループにも引き続き注目だ。素粒子観測でノーベル賞を受賞する研究者は多く、アイスキューブでの成果も受賞の可能性は高い。どちらも日本人研究者が研究に関わっている。

ほかに一瞬で起こる物理現象の解明につながる「アト秒(アトは100京分の1)レーザー」の研究に携わった研究者らも候補に挙がっている。


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日刊工業新聞 2022年9月29日

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