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自動運転実現を支える「電子デバイス」高性能化、量研機構の挑戦

ナノビームで材料設計・開発

自動運転車などによるバリアフリー社会の実現にはスマート化を支える電子デバイスの高性能化が必要だ。デバイスの高性能化には、ノイズ源となる欠陥や不純物の特定、さらにはそれらの制御・除去が欠かせない。これまで、欠陥などの分析では、顕微手法による存在の検知と形状観察が主に行われてきた。

しかし、最終的なデバイス特性に影響を与える、個々の欠陥などの周辺の「電子の性質」については不明だった。デバイス特性は、電気を運ぶ電子の性質(電子の密度や移動しやすさなど)に左右される。この電子の性質を精度良く分析できるのが光電子分光という計測手法だが、顕微観察性能がこれまでは不十分だった。

そこで、筆者らは、欠陥や不純物周りの電子の性質を直接調べるために光電子分光の顕微化を進め、従来装置より100から1000倍高い分解能を有し、マイクロレベル(マイクロは100万分の1)の観察を可能とする新しい装置を開発した。

一方で、顕微化により増大したデータから、どのように電子の性質の情報を引き出すかという課題が浮上してきた。顕微光電子計測で得られるデータは、1枚の画像のためのデータセットだけでも合計データ点数は100億余りと膨大であり、従来の解析法では大量データから電子の性質をつかむことは困難だった。そこで、量子科学技術研究開発機構(QST)は、機械学習を利用して、大量データから電子の性質の違いを自動分類して画像化できる、新しい解析手法を開発した。

これにより、欠陥や不純物周辺の電子の性質の違いをマイクロレベルの分解能の明瞭な画像で示すことが可能となった。機能性材料として期待される高温超電導材料に適用したところ、複雑な表面構造に応じた電子の性質(ここでは電子の密度)の違いを明瞭に捉えることができた。

現在、国内最高輝度の軟X線のナノビーム(ナノは10億分の1)が利用できる次世代放射光施設「愛称:NanoTerasu(ナノテラス)」が建設中だ。軟X線は光電子分光に適しており、私たちは、より高分解能の新しい顕微装置の開発に取り組んでいる。デバイスの欠陥付近の電子の性質をナノレベルで解明し、それを見ながら材料設計・開発ができる未来がすぐそこに近づいてきている。(木曜日に掲載)

量子科学技術研究開発機構(QST) 量子ビーム科学部門 次世代放射光施設整備開発センター 上席研究員(併任)量子ビーム科学部門 放射光科学研究センター 岩澤英明

専門分野は量子ビーム・量子物質科学。放射光やレーザーを用いた実験装置の開発、機械学習を用いた解析手法の開発、高温超電導体などの量子機能性材料の研究に従事。博士(理学)。

日刊工業新聞2022年7月21日

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