センサー機能をチップ1枚にまとめた「マルチモーダルセンシング」、研究開発の現在地
さまざまなセンサーの機能を一つのチップにまとめた(集積)マルチモーダルセンシング技術の開発が進んでいる。多様なデータを収集、分析することで医療、バイオ、化学など幅広い分野で応用が見込める。センサー製造コストの低減も期待できる。豊橋技術科学大学の沢田和明教授らは企業との連携研究を進め、超スマート社会を支える半導体産業の活性化と新規産業の創出を目指している。(名古屋・鈴木俊彦)
豊橋技科大での研究は産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)「マルチモーダルセンシング共創コンソーシアム」で取り組んでいる。20社が参画するオープンイノベーションのプロジェクトだ。
すでに、世界では1兆個以上のセンサーが設置されているといわれている。超スマート社会では膨大な数のセンサーが必要になるが、現状では製造、設置でのコストがネックになる。マルチモーダルセンシング技術の開発は「コストを考慮したセンサー技術の新たなプラットフォームが必要」(沢田教授)という見方に立った取り組みだ。
我々の周囲で起こるさまざな現象は、多様な因果関係が絡み合っている。例えば、臭いは複数の種類のガスが複雑に絡み合っている。臭いの成分を可視化し、因果関係を突き止めれば、予防医療や食品衛生などに役立てることができる。臭い以外にも光、温度、圧力など多種多様な情報取得が可能なマルチモーダルセンシング技術について「超スマート社会を支えるデータの価値を飛躍的に高める」(同)と期待を込める。
豊橋技科大では化学現象を可視化できるイオンイメージセンサーをベースにセンサーの空間分解能、時間分解能を高めるための基盤技術の確立とともに、これを発展させて3種類のマルチモーダルセンサーの開発を進めている。イオンイメージセンサーは豊橋技科大が世界で初めて開発した技術だ。
普及に向けて企業との共同研究が進行中で、このうち、臭い(ガス)成分を検出するマルチモーダルセンサーは2ミリメートルのチップに5種類の検出機能を持つプロトタイプを完成。医療や農業分野などで応用が期待できるという。また、医療分野でもバイオベンチャーによる創薬開発への応用が試みられている。
学内にクリーンルームを備えた大規模集積回路(LSI)工場とも呼べる研究施設を持っており、研究環境が整備されていることも特徴の一つ。集積回路の試作を設計からウエハー試作、評価までを一気通貫で行える総合型研究施設で、半導体製作に関する技術職員が研究をサポートしている。
研究施設では集積回路技術講習会を実施しており、学外からも最新の技術を学ぼうと受講希望が寄せられている。半導体産業の活性化を支える人材育成にも積極的に取り組んでいる。半導体の技術革新につながる教育・研究の推進を通じて、日本の半導体産業の活性化への期待も高まる。