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途切れない無線でロボ制御、NICTが開発挑む通信技術の今

私が子どもだった1970年代、ビルよりも大きなロボットを離れた場所から思いのままに操る少年が描かれたアニメが、ブラウン管には映し出されていた。半世紀の月日が流れて、「途切れず、感覚そのままにロボットを操作する」、アニメで描かれていた技術を実現することが仕事になるとは夢にも思っていなかった。

情報通信研究機構(NICT)では、人の立ち入りが困難な場所(被災プラントなど)に展開された複数ロボット(飛行ロボット〈ドローン〉やクローラーロボットなど)による協調作業を遠隔から制御できるよう、低遅延性と多数接続性を途切れることなく提供する無線通信技術の研究開発を進めている。人の立ち入りが困難な場所は、通過できる空隙(げき)が狭かったり、瓦礫(がれき)が散乱していたりと、ロボットの移動に伴って電波の伝搬損失が大きく変動する環境であることが多い。

このような電波にとって「タフな環境」においても、動き回るロボットとの通信を途切れることなく提供するためには、電波強度などの電波伝搬特性の変動を事前に予測し、先んじて通信経路や通信方式を調整する仕組みが必要である。

これを実現するための要素技術として、ロボットに搭載されたカメラを活用し、機械学習によって1秒先の信号強度を95%以上の精度で予測する手法を開発したほか、通信経路の最適化に向けてマイクロ秒オーダの中継処理遅延を実現する「スマートリピータ」を開発した。リピータは、受信信号の干渉抑圧を行うほか、通信方式に応じて再放射の可否判断を行うことで、方式によらず適用できるようにしている。

私たちは、今後、被災プラントなどを模擬した場所における性能評価を進めて、実際の「タフな環境」でも利用できる技術へ鍛え上げていく。

さらには、周辺環境をより詳細に認識し、使用する周波数や通信方式を自ら選定するインテリジェントなリピータへと進化させて、無線通信の知識がなくても、高度な無線通信を利用したロボットサービスを創れるようにしたい。ロボットと共存しながら、世界中の人々が健やかで平和に暮らせる世界を夢見て。

ネットワーク研究所・レジリエントICT研究センター・サステナブルICTシステム研究室 室長 滝沢賢一

03年新潟大学大学院博士後期課程修了後、NICTへ。ウルトラワイドバンド無線、ボディーエリア無線(体内外含む)、ドローン向け無線、海中無線、低遅延無線などに関する研究開発に従事。21年より現職。博士(工学)。
日刊工業新聞2022年7月26日

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