経済安保を根付かせられるか、日本の学術界に試金石
大学・国研、管理体制を整備
研究開発における経済安全保障が重要課題になっている。技術情報管理の厳格化が想定され、地方大学などの管理部門が脆弱(ぜいじゃく)な組織にとっては負担が大きい。特定の大学への選択と集中が進むのではないかと懸念されている。政府の経済安全保障重要技術育成プログラムには5000億円が措置される方針だ。各分野で重要技術の選定体制と情報管理のルールが作られる。日本の学術界に経済安保を根付かせられるか試金石になる。
「経済安保は日本の技術を守るだけではなく、日本が世界の最先端研究についていくために必要だ」と理化学研究所の五神真理事長は説明する。先進7カ国(G7)の中で日本以外は特定の管理基準にそろいつつある。日本の研究者が好むと好まないかにかかわらず、経済安保は国際連携に必要な要素になってしまった。量子や人工知能(AI)、半導体など米国がけん引する分野では顕著だ。だが日本の大学組織と経済安保はなじみが悪い。
日本の研究室は多くの中国人留学生に支えられている。研究に打ち込む”優秀層”の数と質は群を抜く。政府の研究インテグリティー(健全性・公正性)の検討会に参加した民間出身の有識者は「大学関係の委員が『うちの大学から留学生を排除したら論文など出ない』とあっけらかんと話す。あの大学の研究成果はどこで活用されるのか」と閉口する。
民間企業にとって管理の甘い組織との産学連携はリスクだった。研究のデジタル変革(DX)やデータ連携を進める上で管理体制の整備は喫緊の課題だ。科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は「経済安保は重要課題。早急に進めなければならない」と強調する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の石塚博昭理事長は「経済安保は産業界にとって懸案だった。ようやく研究の進め方が明確になる」と歓迎する。
経済安保は突如発生した課題ではない。5月に施行された外為法に基づく「みなし輸出」の厳格化では、国内居住者であっても外国政府から留学資金を受け取っている留学生や外国大学の教授を兼務する日本の大学教授などは外為法の管理対象になった。これに先立ち大学や国研は管理体制を整えてきた。
ただ現場からは「厳しく調査すると際限がない」と声が上がる。他にも「中国との共同研究に大幅な制限がかかった」、「留学生が直前になって来日できなくなった」などと不満が出ている。
そして大学では教員個人に任される部分が大きい。情報通信研究機構(NICT)の徳田英幸理事長は「米国はリスト化し明示している。日本もホワイトリストやブラックリストを整えた方がいいのではないか」と指摘する。物質・材料研究機構(NIMS)の宝野和博理事長は「審査業務に企業で輸出入管理をしていた人材を雇用した。学術界でも人材を育てた方がいいのではないか」と提案する。産業技術総合研究所の石村和彦理事長は「本当に重要な技術は企業は1対1で契約を結ぶ。国研の研究者はみなプロだ。法令や契約を守り、連携の受け皿になる」と説明する。経済安保は産業振興の施策から立ち上がり、科学技術分野が続く。実行性のある仕組みができるか注視される。