科学技術の経済安保、“攻め”と“守り”の体制構築へ急務なこと
科学技術分野で経済安全保障を実践するには、重要技術を見極めて育てる〝攻め〟の戦略と、技術流出を防ぐ〝守り〟の体制が必要になる。どちらも人材育成が急務だ。攻めの人材は研究の最先端を把握し、刻々と動く産業の急所を押さえる。守りの人材は広範な研究分野と経済安保の最新動向を押さえる。そして攻めと守りの接続が重要になる。
経済安保の攻めに関しては2023年度をめどにシンクタンク機能を担う特定重要技術調査研究機関が設立される方向で進んでいる。同機関は内閣総理大臣が一定の力を有し、守秘義務が課される。特定重要技術の見極めや、その開発について調査研究する。経済安保の戦略は一度作れば終わりではなく、国際情勢や技術開発動向を反映して常に更新していく必要がある。
この組織規模について、三菱総合研究所の明石道融主席研究員は「少なくとも100人は必要ではないか。規模でできることが変わる。だがポジションを用意すれば人材が集まるというほど簡単ではない」と指摘する。経済安保は産業振興と技術開発、安全保障政策の融合分野だ。エネルギーや半導体、医療などの各分野で技術経営と先端技術、政策運用が分かる人材が必要だ。そして以前は大企業の中央研究所が主要プレーヤーだったが、現在は大学やスタートアップなど、調査対象は広がっている。
これまで国の研究開発戦略では学術界の大御所を据えて舵取りを任せてきた。研究者をマネジメントする能力と、先端技術や産業の急所をあらわにして押さえていく能力は異なる。単純に各分野の大御所を集めればいいわけではない。明石主席研究員は「最先端で研究できるレベルの人材をシンクタンクでトレーニングする必要がある」と説明する。
経済安保の守りの人材は開発プロジェクトや研究機関などで情報流出に目を光らせる。今回の大型予算で立ち上がる開発プロジェクトの内容に限らず、経済安保に関わる重要技術を保護するために研究者の意識啓発や情報管理を担う。三菱総研の宇佐美暁主席研究員は「大学は専門家をせめて1人は置いた方がいいのではないか」と指摘する。研究不正対策として研究倫理の専門家が配置されたように経済安保に通じた専門家も必要になる。これを研究者のポジションを用意し専門性を磨かせるのか、管理部門の一機能として多分野をカバーし組織的に対応するのか、難しい判断になる。
重要なのは攻めと守りの接続だ。技術開発戦略やロードマップのように、策定に参画した人間は行間が読めるが初見の人間には読み解けないという問題は常にある。例えば中国という国名は外為法や経済安保では明記されない。だが海外事例として中国企業の事案が紹介され、実質的に対象に含まれる。元官僚の関係者は「国名を記せば外交問題になる。ふわっと進めるしかない」と説明する。今後規制対象の技術リストが策定されても行間を読む力が必要になる。
経済安保の攻めと守りの人材はそれぞれ別に措置されるが、情報が分断されると勘所が理解されずに運用されかねない。そして事態は刻々と動く。連携を前提に仕組みを整える必要がある。