新機軸打ち出す都のスタートアップ支援、問われる本気度
スタートアップ支援で東京都が新機軸を打ち出した。関連する組織横断で構成するチームを結成。都庁を飛び出し、都内のイノベーション拠点に“出島”を構え、職員を常駐させる。スタートアップとの日常的な接点を深めニーズに応えた施策展開につなげる狙いだ。スタートアップの活力による経済成長は国や経済界も重視するが、ビジネスや暮らしに直結する多くの政策現場を持つ都ならではの独自色が求められる。(編集委員・神崎明子)
「これは都が本気でスタートアップ支援に取り組むという決意表明である」。
8月26日、都内最大級のイノベーション拠点「CIC Tokyo」(東京・港区)に集うスタートアップ関係者らを前に、小池百合子知事は新たな施策方針についてこう述べた。スタートアップとの緊密なコミュニケーションを重視した組織運営に加え、大学、経済界との連携強化も盛り込まれている。傍らには経団連副会長の南場智子DeNA会長。「気持ちは出ているが、細かな制度面や起業家がどんなストレスがあるのか直接話を聞いてほしい」と注文し、加えて「エコシステムは目玉施策だけでは動かない。できることはすべてやってほしい」と期待を寄せた。
都のスタートアップ支援策は見劣りするどころか、むしろ充実してきた。成長を促進するアクセラレータープログラムや資金調達支援、行政調達など成長局面に応じて多彩な施策を展開。そのひとつ、「キングサーモンプロジェクト」と称する施策はまさに、起業―事業拡大―株式公開による利益回収―次の起業という「起業のサイクル」を目指すもので、「サケが大きく成長して生まれた川に戻ってくるように」との思いが込められている。一方で施策や担当部局が乱立し、情報発信も集約されていないのが実情だ。
新方針はこうした事態を打開するもので、宮坂学副知事(元ヤフー社長)の問題意識も色濃く反映している。スタートアップ振興で近年、成果を上げるフランスの取り組みを念頭に、スタートアップが直面する課題に一元的に応える組織運営や、「フレンチ・テック」のブランドで政策を可視化する行政手法に注目するからだ。
都は、2023年には国内外の企業や投資家が集うイベント開催も予定しており、小池知事は「1万人規模になる」と意欲を示す。こうした華やかなイベントは「東京」を世界にアピールする機会にはなる。ただ、都がスタートアップに提供できる大きなリソースのひとつは、技術やサービスの実証や社会受容性の検証を繰り返すことができる場の提供だ。社会課題の解決につながるビジネスも広がっているからこそ、スタートアップにとっては教育や福祉、医療など都が携わる施策領域は魅力であり、都は「ファーストカスタマー」として、ビジネスモデルの確立を後押しすることができる。もとより、国とのパイプを生かし、ビジネスを阻む規制緩和を率先して働きかける役割も期待される。
これらは一見、地味な取り組みだが、スタートアップの声に真に耳を傾け、機動的に動けるか。都の「本気度」は、むしろこうした点に問われている。